ちょっと酷かったかな、って後悔はしてる。

だってマスターは、酷い。
確かにミクは人間じゃないし、勿論マスターの恋人なんかじゃない。
ケーキを用意してパーティとか、そんなところまでの期待は持っちゃいけない。

だけどさ、あれはないでしょう?

綺麗な料理なんかいらない。可愛いケーキもいらない。
だけど、ほんの些細なプレゼントぐらい、期待したっていいじゃないか。

きっと何だって嬉しかったのに。
ほんの小さな、ちっぽけな"特別"でも、ミクはきっと死ぬほど嬉しかったのに。

なのに何?大掃除?ハァ?ばっかじゃないの?

大晦日の一週間前だなんて知ってるよ。
毎日カレンダーにバツつけるの、ミクだもん。
マスターが早め早めに行動してるのだって、知ってるよ。

だけど12月に入ってから、そのカレンダーにバツをつけるだけの動作が、
どれだけ楽しみで期待に満ちたものになったのか、マスターは知らないんでしょう?


っていうか、完璧に勘違いしてるよね。
確かにミクは季節ネタ大好きだけど、そんなのいつだってできるじゃん。


本当に、馬鹿。
いつも料理なんかしないくせに、御節なんか作っちゃってさ。
おいしそうじゃん。馬鹿野郎。
着物超似合ってる、不愉快だけどすっごいカッコイイ。
馬鹿だよ、馬鹿。
……ミクのぶんまで、こんなの、用意しちゃってさ。


「あ、あのぅ、ミク?初音さん?…ごめん、まだ気に食わない?」


背後からの、似合わないひょうきんな声がすっごくむかつく。
むかつくよ、バカマスター。


「うわ、何?なんで泣いてんのお前っ!?ごめん、なんかごめんっ!」
「……ぅ、ううぅっ…ぐず、ぅわああああぁあん!!」


壁にかかっていた綺麗な着物を抱いて、ぼろぼろ泣いて。
慌てるマスターに、抱きついて。

「ごめんなさい」

違う。違うよね、言いたかったのはこれじゃなくて。


「ありがとうマスター。…大好き!」


あぁ、やっと言えた。
言っちゃ駄目だってずっと抑えてたけど、やっと言えた。

マスターは何も言わずに私の背中を撫でて、頭を撫でて、「俺も」と呟く。
思わぬ返事に飛びのくと、別人みたいに微笑むマスターと目が合った。

え、ま、まさか。

マスターが着物の袂に手を入れて何かを探るのを、じっと見守る。
心臓の音がうるさい。まさかまさか。
もし、ゆ、指輪とか…が、出てきちゃったりしたら。
う、嬉しくて死んでしまうわ…!

「ミク」
「はぃいっ!!」

差し出してきたものを、半ば無意識に受け取る。
がさり、と。紙の触感がした。
…え、紙?


「はい、お年玉。今年もよろしくな!」


………あれ、嘘でしょう。
ここまで来て、そんなオチ?こんなのって、あっていいの?

私は受け取った紙を丁重に懐にしまって、微笑んで。
その輝かしい笑顔に、拳を打ち込んだ。




 


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