珍しい理由


アッシュはカルシウムが足りてないと思うんですよ。

カルシウムが足りていれば他人の髪をむしったりしないし、
剣を抜きながら女性を睨みつけたりしないと思うのです。

土下座の勢いで頭を下げると、アッシュは深いため息をついて、
すたすたと廊下の奥へ消えてしまいました。
危機は去った。喜ばしいですね。

では早速、エクスプロードを…

「おい」
「ぎゃあああああああっ!ごめんなさい!ごめんなさい!!」

条件反射でした。
何故謝る、と怒鳴られましたが、私にも全くわかりません。
帰ってきたアッシュは二度目のため息をついて、私に棒を渡してきました。
…はて。
これは棒ではなくて、真新しいモップですね。

「さっさと終わらせろ。見苦しい」

受け取ってアッシュを見ると、彼もまた、真新しいモップを持っていて。
ああ、手伝ってくれるんですか。びっくりです。
手動だと時間かかっちゃうんですが、二人ならすぐ終わるでしょう。

ここを一般兵が通りかかったら驚愕してしまいますね。
特務師団長と、第六師団幹部が水浸しの廊下を掃除しているなんて。

「ついさっき、カンタビレとすれ違った」

マントを脱いで、随分すっきりしたアッシュがそう言いました。
「ええ、ヴァン謡将にお呼ばれです」
用件なら私も少しは理解しています。この時期ですから。

カンタビレ師団長は随分と真面目で、信念を持った人物です。
私とは相容れない性格の人ならば随分と心酔できるだろうなと思うほど
優秀で、まっすぐで、熱い心を持った人物です。

まあ、特別珍しい理由でもありません。
ヴァン謡将、というより大詠師モースが、彼女を邪魔に思っているのです。
近々私、また職場が変わることになりそうですねえ。

「第六師団が潰れたら、もらっていただけません?」
「断固拒否する」

ですよねー。


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