ちょっと苦手


成り行きメンバーと友好的な関係を築きつつ、辿り着きました。
国境の砦カイツール。

一、二度来たことはありますが、特に思い出がある場所でもありません。
いえ。思い出がある場所のほうが、稀有なのですけれど。

彼らはアニスを探しているようです。
マルクト陛下がジェイドとイオンくんに託した親書を、
今は彼女が持っているのだとか。随分と無用心なことです。

アニスを見つけるのに、さほど時間はかかりませんでした。
見張りの兵士に甘えたっぷりの声で『お願い』する後ろ姿は、
可愛らしい少女にしか見えません。しかし、兵士もお仕事ですから。

一蹴されたアニスは、いかにも残念そうに兵士に背を向けて。
「月夜ばかりと思うなよ」、と。
先程の面影が欠片もないドスの利いた声で、吐き棄てました。
恐ろしい少女です。

先日のイオンくんの発言、下種だのご主人様だのととんでもない言葉の
出所は、ほぼ間違いなくアニスだと思って良いでしょう。
「アニス、ルークに聞こえちゃいますよ」
慣れた、というか気にも留めない様子のイオンくんがそう言います。

途端、とても映像化できない顔だったアニスの表情が、豹変しました。
きゃわぁ〜ん、ですよ。きゃわぁ〜ん。
ハートマークの乱舞です。恐ろしいにも程があります。

心配する直前だっただの、心配しろだのとジェイドとの論争を続け。
やっとアニスは、私に気付いたようでした。

「ユノ!?なんでいんの?てか何その頭っ!?」

ただでさえ大きな目が更に見開かれました。
アリエッタにも言われましたが、そんなに変でしょうか。
そういえばまだ一度も鏡、見てませんね…

「変だよ、変すぎ!超散切りじゃん!何、大佐にいじめられたの!?」
「アニース?何故私限定なのですか?」
「だって女の子の髪切るなんて外道、ここには大佐しかいませんよぅ!」
「侵害ですね。どこの大佐でしょうか、そんな外道は」

アニスが走り寄って、私の両手を握りました。
瞳には涙すら滲んでいます。きっと彼女の脳裏には、鬼畜大佐に髪を切られて
泣き叫ぶ可哀想な女兵士の姿が劇的に描かれているのでしょう。
100%空想です。
この髪にジェイドは全く関係ありません。
強いて言うなら、ミュウが犯人です。

「安心してユノ。後でアニスちゃんが揃えてあげるからね」

断る理由はありません。素直に頷いておきました。

要領がよくて態度をころころ変える彼女は。
ちょっと苦手です。

prev next

戻る
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -