一番最初の
ユリアの譜歌。
ティアが歌った、先程の譜歌のことです。
ジェイドは疑り深そうに彼女の説明を聞いていましたが、
私はまあ、お察しの通りです。
興味ありません。
「おい、なんで殺そうとするんだよっ!」
地に伏したアリエッタに槍を向けたジェイドへの、ルークの台詞です。
…なんというか。甘い、ですよね。彼。
私も彼によって助けられたので強くは言いませんが、優しすぎると思います。
しかしそれが普通の感性なのでしょう。
彼は軍人ではないのですから。
「ジェイド、僕からもお願いします。アリエッタを殺さないで下さい」
「しかし…」
「ジェイド!」
イオンくん。心なしか、私の時より必死具合が違いますね。
被験者である導師イオンの感情を、それなりに知らされているのかもしれません。
彼は、アリエッタを特別気に入っていましたから。
私の時も退いてくれたジェイドです。
無論、アリエッタを殺すのは断念してくれました。
彼女とライガを、崖近くの瘴気が少ない場所に移動させ、行動再開です。
*
「お前ってさ、冷たいよな」
フーブラス川を抜けて数時間。
大樹の影で休憩している時に、そんな挑発的な声をかけられました。
そうですか?と疑問系で返したはいいものの。
自覚はしてます。彼から見たら、私は冷徹にしか見えないでしょう。
「アリエッタが殺されそうな時。何も言わなかったじゃねえか」
「一応、私の立場は人質です。迂闊な発言はできません」
「俺とイオンが言わなかったら殺されてたんだぞ?仲間なんだろ!?」
随分と感情的になっていますね。
自分の気持ちを隠さない、単純な人間は嫌いじゃありません。
好きでもないですけれど。
「ルーク」
「なんだよ……っうおっ!?」
前髪に隠れた彼の額を、指先で軽く押します。
座っていた私の目線にあわせ、しゃがんでいた彼は体制を崩しましたが。
構いません。
「人の生死を本気で考えられるのは、人間の証拠です。大切にしてください」
これが、貴方に対しての。
私の一番最初の気遣いで、一番最初の伏線になります。
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