失敬です


「彼女を、殺さないでください。ジェイド」

ティアや金髪の制止の声も聞かず。
導師は私とジェイドの間に立って、そう言いました。

「彼女には…ユノには、恩があるんです。だから」

恩?何を言っているんでしょうか。

「それは彼女が以前、導師守護役をしていたからですか?」

何故知っているんです、マルクト大佐。
そういえば最初に会ったときに名前と役職を尋ねられましたね。
…調べたんでしょうか。わざわざ?

導師は、言いにくそうに唇を噛んで。
「厳密には、違いますが…そうとも言えるかもしれません」
そう言っては、一介の軍人に過ぎないジェイドに、頭を下げました。

いくら下手に出ていても。
導師は、ダアトの最高責任者です。
ジェイドは溜息をついて、槍を文字通り懐に収めました。

「イオン様に感謝するんですね」
「もちろんです。ありがとうございます」

間髪入れずに頭を下げた私に、呆れたような視線が向けられました。
失敬ですね。

「なあ。彼女をどうするんだ?このまま見逃すのは…」
「そうですね。適当に殴って気絶でもさせましょうか?」
「いやいや勘弁してくださいよ。助かってないじゃないですか」
「なら、一緒に行くですの?」

………は?
なんですか、今の声。誰ですか?
一同に目を向けますが、今の声に該当しそうな人はいません。
ルーク、ティア、ジェイド、金髪、導師、チーグル。
…チーグル?

「なぁに言ってんだよ、ブタザル!」
「みゅぅぅうう痛いですの〜」
「ルーク、やめて!かわいそうだわ!」

ち、チーグルが…喋ってる。
私の目を焼いた、髪を焼いたチーグルが、…喋ってる?

流石に唖然とする私に、導師が困ったように微笑みかけました。
いえ、にっこり、じゃありませんって。
教団の聖獣、めっちゃくちゃ踏まれてるんですけれど…?


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