嵐の後


無駄な抵抗はするものじゃないです。

カンタビレ師団長の声を聞いた私は全力でその場から去りましたが、
まさか彼女が剣を投げてくるなんて思いませんでした。
たんこぶ出来ちゃいました。うふふ。

「リーランド、手を抜くと夜までに終わらないぞ」

現在の状況説明に入りましょう。
私は廊下にいます。手にモップを持っています。
カンタビレ様が腕を組んで不機嫌そうに私を見つめています。
終了です。

サボり、及び上官からの逃亡ということで罰掃除中なのです。
あーもー面倒臭い。豪快でがさつなくせに罰がねちっこすぎます。
「リーランド」
あらあら、読心術でも習得してるんでしょうか。
はいはいわかりましたー。頑張ればいいんでしょぉー。

黒ずんだ汚れを水で落としていると、廊下を男性兵士が走ってきました。
少しずるっとしながらも、カンタビレ監督の前にたどり着きます。

「師団長、首席総長がお呼びです」
「そうか、すぐに行く、…リーランド、サボるんじゃないぞ!」

私の横を監督が通り、廊下の奥へと消えました。
監督はずるっとなりませんでしたねえ。実に残念です。
でもまあ、彼女をずるっとさせるのはまたの機会にいたしましょう。
今はこの廊下を掃除するのが先です。

「飛散せよ、流転の泉」

サボったりしませんよ。怒られちゃいますからね。

「スプレッド!」

術の構築が終了し、どばーっと水流が廊下を襲います。
あ、間違えました。水流が、廊下を水洗い致します。
術者の私以外は見事に嵐の後って感じですね、上出来だと思います。
じゃあ次はファイアストームで乾燥させましょうか。
「おい」
えっと確か詠唱の始めは…

「おい、聞いてるのか!ユノ!!」
「ぎゃあっ!!」

後ろ髪を引っ張られました。痛いです!ぶちぶちいいました!
振り返ると、全身が重そうにずっしり濡れた既知の人物が立っておりました。

「お、お久しぶりですね。アッシュ」
「ああ久しぶりだな。ここまでの仕打ちを受けるのは」
「ぎああああ痛い痛い痛い私の髪はそんなに伸びませんよ」

根元近くの髪を掴んだまま、徐々に持ち上げられます。
結構な量を掴まれているのであまり抜けませんけれど、やっぱり抜けます。
ぶっちぶっちいってます。あんまりです。

「ご立腹のようですが。まさか先ほどの掃除に巻き込まれましたかね」
「そのまさかだ」
「少々お待ちください、降ろしていただければエクスプロードが」
「俺を焼き殺す気か!」
「ほ、焔の御志よ、災いを灰燼と…」
「焼き殺されたいのかお前は」

呆れたような声の後、地上に帰還します。
全体的に赤いくせに絶対零度な瞳が私を見下していました。
いやいや、反省してます!してる!本当!だから剣を抜くのはやめて!


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