それでも私は


私は、上司と合流したいって、言ったんです!

「動かないでくださいね」

首筋にぴたりと当てられた槍に、少し背筋が寒くなりました。
そんな楽しげに言わないでくださいよ。
ジェイド・カーティスさん。

場所は、フーブラス川。
森を適当に歩いていたらたどり着いたので、なら近くにあるはずの
セントビナーに行こうと、街道に出た直後のことです。
鉢合わせました。
ええもう、図ったようなタイミングで。

ジェイドの動きは迅速でした。
正面にいたルークやティア、そして私が声をあげる前に飛び出して。
一定の距離をとりつつ、槍を突きつけてきました。

その距離が、また絶妙です。
殴るには、少々遠く。撃つには近すぎます。
封印術は身体的な制限しか成しませんから…思考力は、流石です。

「お、おいジェイド。そいつ神託の盾の…」
「ええ。まさか生きていたとはね」

悪かったですね、生きてて。
彼らが会話している間に、その人数を確認します。
ルーク。ティア。ジェイド。それと金髪の知らない人。チーグル。
導師。
………いえ。浸る感傷なんて、ありません。

「と、取引を…しませんか?」
「お断りします」

語尾にハートマークでも付きそうな口ぶりです。
行動が自由だったらぶっ飛ばしてました。
だけど死ぬのは嫌ですね。
ぶっ飛ばすのも一時の恥も我慢しましょう。
こんな状況で、無様に、無残に死ぬのだけは、嫌です。

「ごめんなさい。助けてください。許してください」
「何をですか?」

何をでしょう。わかりません。
強いて言うなら、甲板に転がってた死体の件でしょうか。
だけどあれについて謝るのは、お門違いな気がしなくもないですね。

にこり。
ジェイドの柔らかな微笑と、目線が重なりました。
「さようなら」
槍先が首に触れ、薄皮が一枚斬られた直後です。

待ってください。そして、待てよ、と。
二人の声が重なりました。

「こ、殺すこと…ねえだろ。謝ってんじゃんか」

一人は、ルークです。
意外には思いませんでした。人を殺し、あんなに動揺した彼です。
よほど反抗的な態度をとらなければ止めてくれるだろうなあと、
少しというか大分期待していたのは事実です。

しかし、もう一人は少々意外ですね。
導師さま。あんなに傷つくことを、私は彼に言ったのに。
どこまでも綺麗な人なんですね。
どこまでも優しい心を持っているんですね。
ごめんなさい。

それでも私は、貴方を気持ち悪いって、思ってしまうんです。


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