やってくれますね


譜術の光が収まると同時に、ジェイドが突っ込んできました。

いつの間にか手には槍を構えています。
これはコンタミネーション現象、でしたっけ。
かなりの高等技術です。さすが死霊使いさまですね。

だけど、遅いです。

身体を逸らし、横薙ぎの槍を長杖で弾きます。
この武器、あくまでも銃はおまけですから。
殴ることも、殴り殺すことも。もちろん可能です。

このまま後頭部を叩き潰しちゃいましょう。

そう思って振りかぶった時、視界の端が金属の煌きを認知しました。
投擲ですか。賢明ですね。
杖を振るって一、二本を弾き、数本を回避します。
ジェイドに当たらないかなあと目論んだのですけれど。
当たり前ですが、残念な結果に終わりました。

やっぱり。
ティアからしとめたほうが、よさそうですね。

床を蹴って、一気に距離を詰めます。
射撃はこの際忘れましょう。
体勢が乱れたまま長銃を扱うにはあまりに危険な状況です。

ティアのナイフは接近戦で扱えるほどの物ではありません。
ティアの杖は、距離を詰めてしまえば怖くありません。
つまり、懐に入ってしまえば簡単に殺せます。

ええ、簡単に殺せるはずだったんですよ。

ティアの喉元に、杖の先端を突きつけて。
このまま貫いてしまおうと思った、その瞬間のことでした。

みゅぅ、と。

あまりにもこの場に不釣合いな、真の抜けた声が、聞こえました。
不覚にも、私の脳から一瞬だけティアが消えます。
そして、ルークの足元にいた、私のすぐ近くにいた、小動物に支配されました。

…え?なんでこんなところに、チーグルが…?

変な輪っかを腰に巻いた小さなチーグルは、小さな口を開けて。
開けて。
赤く燃える、というか燃やす、火炎を、放射しました。

「きゃああああああああっっ!!」

いやあああああ!目がああぁああぁぁあ!!
思わず杖を抱き込んで、壁際に寄ってしまいました。
壁。違いますね。窓です。
先刻の戦闘で硝子がなくなってしまった、窓です。

誰かに、身体を突き飛ばされました。

落ちます。未だに走っている陸艦の、窓から。
一瞬で全身が浮遊感に包まれて。
微かに回復した視力で、遠ざかるタルタロスの窓に確認した姿は。

ええ、やってくれますね、本当に。


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