覚えている


私が導師守護役として働いていたのは、一年と少しの期間でした。
短いか長いかの判断は個人に委ねましょう。
私たちの関係は。
前々から言っている通りです。
私はあの人に興味がなくて、あの人は私が嫌いで。

興味はなくとも、会話はしました。
彼の人間性を、少なからずは覚えているつもりです。
だから。

「気持ち悪いんですよね。あの子」

リグレットに連行…いえ。護衛された導師を指して、
独り言のように呟きます。それに律儀に反応を示す臨時上司。
しかしその表情は険しく、この話題は好まない様子でした。
関係ありませんけど。これ、独り言ですから。

「関心があるわけではありません。嫌いなわけでもありません。
 ただ、思うんですよ。気持ち悪いって、漠然と」

そう思える程度には、私はイオンを覚えている。
シンクの場合はここまで感じない、不快感が彼にはあります。
それは性格の問題ですね。確実に。
良人格者のほうが気持ち悪いとか何様だよって感じですね。

散々無碍に扱った人間でも忘れられないとは中々不便です。
私は他人の顔を忘れません。
だから、艦内から現れた生存者三名のうち、二名。

殲滅対象のうち二名の、顔と名前は記憶したままでした。

「私達には気付いてないようですね。殺りますか?」
「…」
「沈黙はどうぞってことですよね。じゃあまずは女を―…?」

いえ。名前は、覚えてます。
今私の視界を止めたのは、ティア・グランツではありません。

朱。
たとえるなら、夕日でしょうか。
夕日の色の長髪と、白い服。腰に片手剣を下げた、生存者の青年。
足早に先行する軍人二人に、不満げについていく彼の顔は、
見覚えがあるなんてものじゃありませんでした。

顔の向きをそのままに、視線だけを横にずらします。
憎悪。その一言に尽きる表情でした。

…ああ。レプリカ、ですか。

状況、色素の劣化具合からしてアッシュが被験者でしょう。

あら。しまりました。目を離してしまいました。
丁度真下の操舵室に、ティアとジェイドが入り込んでしまってます。
だけどレプリカの彼は射程距離にいますね。じゃあまず彼を殺しましょう。
そう思って銃口を向けた時。

レプリカの彼が、一線を越える出来事が起こりました。


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