どっか遠く
先ほど嘘をつきましたね。
あまりにもあっけなく、の部分です。
私は彼の死を見ていないし、聞いていないのです。
ただ、病がひどいので守護役にも顔を見せずに療養すると。
そう告げられて、私たちは守護役を解任されました。
結構楽だったんですけどね。残念です。
「ぅう、うっ…ユノ、ユノっ、イオンさまがぁ…!!」
「うん。心配だね」
涙と鼻水で顔を汚して、泣きじゃくるアリエッタ。
本当は微塵も心配なんかしてませんけれど、話を合わせます。
彼女には彼の死を伝えてはいけないのでしょう。
恐らくイオンに対する最初の気遣いです。死後で申し訳ありませんね。
"元"導師守護役たちは、散り散りになってしまいました。
思い入れはありません。業務上、顔を合わせること自体稀有でしたから。
そして私が配属されたのは、第六師団。
多分私が一番苦手なタイプの人が、師団長でした。
*
「最近、忙しそうね」
偶然会ったリグレットからの労いの言葉。とても珍しいです。
だけどそういうリグレットも、最近は首席総長さんに命じられて、
どっか遠くの街にわざわざ出向き、生徒指導を行っているという噂です。
忙しいのは私じゃなくてリグレットでしょう。
「あの人は貴女に合わないでしょうね」
「そうですね。口を開けば突撃だの突っ込めだの」
「…まだ、そんな」
深いため息です。
私の上司、カンタビレとリグレットはどうも折り合いが悪いというのは
神託の盾騎士団では有名な話です。
まあ、なんといいますか。水と油、そんな感じです。
特に意味のない会話と、時間が過ぎて。
どっか遠くの廊下から私の名前を呼ぶ声が聞こえたので、退散します。
逃げましたよ。怒られますし。殴られますし。
結果ですか?
3分と待たずに捕縛されて、連行されました。
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