いいんですかね
障気を中和して数日。
アッシュの様子がおかしいというのは、私と漆黒の翼たちとの総意でした。

「………」

ギンジが舵を取るアルビオール内。
私は窓際の席に腰を下ろしたまま、離れた位置の赤い後頭部を見つめます。
……そうですねぇ。
様子がおかしい…というか。変わってしまった、というか。

まだヴァンが残っているとはいえ、障気を消滅させたんです。
もう少し喜んでもいいんじゃないか、と思うのは仕方ないことでしょう。

「ところで、少しいいですか」
「なんだ」

アルビオールが着陸したのを頃合に、声をかけてみました。
振り返りもせずに応えるアッシュ。
この反応には慣れっこなので気にしませんが……あれ?漆黒たちがいませんね。

「ここ、何処ですか?」
「すぐに分かる」
「アッシュの旦那!準備、できましたぜ!」

淡々と言うアッシュ、機外から叫ぶウルシーとヨーク。
すぐに分かる?
どうも含みのある言い方ですね、と私が首を傾げるのも束の間。

「失礼しますぜ、ユノさん」
「!? ちょっ…」

機内に戻ってきたヨークが私を抱え上げ、ぽいと外に投げ出します。
なす術もなく地面に放られ、転がるユノ・リーランド。
その脇を無言で通り過ぎていったウルシーが、静かにハッチを閉めます。

……って、え?何ですかこれ。何のイジメですか、これ。

「待てコラァ!どういう展開ですか、これぇ!!」
「三日後に迎えに来る」
「はぁ!?」
「何度も言わせるな。三日後の朝だ、遅れれば捨てていく」

それだけを言い残したアッシュは、アルビオールの窓を閉め。
そして申し訳なさそうに笑うギンジに命じ、離陸させました。
私を置いて。

「……えぇええー」

置き去りにされるのは、初めてではありません。
けれど…ここまで唐突で突拍子もない置き去りは、初めてです。
意味が分かりませんでした。
……この瞬間までは。

「あれぇ、ユノ?」
「!」

呆然とする私に投げられたのは、彼女特有の間延びした声。
弾かれたように振り返ると、そこには見慣れたご一行様が勢ぞろい。
率先して声をかけたアニスに続き、一同は私を取り囲みました。

普段ならば、気まずくもなるのでしょうが。
今この状況で知り合いに会えるというのは、少なからず嬉しいものでした。

「何してんのだ、こんなとこで?」
「……捨てられました」
「は?」
「だから、捨てられました。アッシュに」

一応迎えには来るみたいですけど、と継ぎ、ぽかんとする一同から目を逸らします。
……だって、顔見れないですよ。
絶対哀れまれてるに決まってます。ああまたコイツ、今度は何したんだろう、みたいな生ぬるい視線で見守られてるに決まってます。ちくしょう。

という、私の心境を裏切ったのは、誰だったのでしょうか。

「ユノ。それ、違うわ」

信じられないほど静かなティアの声に、我が耳を疑う思いで目線を戻します。
ティアは笑っていました。
哀れみも生ぬるさもない、穏やかな笑顔で、二の句を継ぎます。

「アッシュはあなたを気遣ってくれたのよ」
「……え?」
「本当、不器用なヤツだよな」

ティアに対し、ガイは全力で笑いをかみ殺していました。
彼の後ろのジェイドとアニスも実に楽しそうなのですが、どういった了見でしょう。

未だに状況が掴めていないのは私だけのようです。
さすがに苛立って本題を尋ねると、ナタリアが口を開きました。

「明日はダアトの教会で、導師イオンの慰霊祭が開かれますの」

息を飲むと同時に、視界の端に懐かしい街並みが見えました。
……なんだ、ダアトだったのか。
こんなに近くに立っていたのに、気付かなかったんですね。私は。

「……私、行っていいんですかね」

イオンくんの慰霊祭。
正直、私に彼を悼む権利なんてないような気がするんですけれど。

「っ何言ってんの!アンタが出なくてどーすんのよ!」
「!」
「面倒臭いとか言わせないからね!強制参加!絶対参加!確実参加!!」

私の独白に過剰反応したアニスの、痛恨の一撃。
鳩尾にクリーンヒットした彼女の拳は、もうトクナガいらねーだろって威力でした。痛い。めっちゃくちゃ痛い。痛すぎて涙出てきました。

「わかったぁ!?」
「は…はい。分かり、ました……」

痛みに悶える私を見下ろし、アニスは太陽のような笑みを浮かべます。
よろしい、と頷いた彼女は、静かに手を差し伸べてきました。
なんたる飴と鞭。
最近たくましくなりすぎてないですか、この子。



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