叩き潰します


真っ黒に焦げた家屋。
その煤や灰や炭を踏み分けながら、視線を走らせる。

見つけないと。確認しないと。
その一心で、低い目線を懸命に動かしながら。
細くて小さな手で、未だに熱い木炭を掻き分けながら。

そして、見つけた。
施設と同じように真っ黒になって、焼け落ちたその体を。
確かに見つけたのに。


「…うわぁ、こういうことか。気持ち悪いなあ」
ガイと会話する、ガイの姉のレプリカ。その隣に立つ"彼"を見据えて、静かに呟く。
虚ろな目。青白い肌。
"彼"を見るのはフリングス将軍が命を落とした戦場以来の二度目ですが、その"顔"を見るのは随分と久方ぶりになります。
そうですね。ちょうど…十余年ぶり、になるのでしょうか。

「知り合いでもいたのか?ユノ」
嫌悪をあらわにした私の顔色を窺ってくるルーク。
ええまあ、と吐き捨てて、ガイ姉(仮)の隣を指し示します。
武器である長杖を向けられても尚、動かない表情。本物とは大違いですね。

「あれですよ、あれ。私の過去に登場した、"管理人"です」

「……えっ」
目を剥くルーク。…だけじゃないですね、そういえば全員話は知っているんでしたっけ。
「本人の死体は確認したのでレプリカですけど。…まさかもう一度見るはめになるとは」
うんざりした風に肩をすくめる私。
その隣に、ふとジェイドが立ちます。ぎょっとしてその顔を見上げれば、彼は随分と深刻な表情で管理人レプリカを見据えていました。

「…なるほど、管理人…彼がですか。ならユノがホド出身者という仮説、当たっているかもしれませんね」
「は?」

思わぬ言葉に目を瞬く。

「彼は昔、ホドで名を馳せていた幼児誘拐犯ですよ。
 崩落以来姿を見ないと思っていましたが…まさか、集めた子供で犯罪組織を形成していたとは」

……。
ジェイドの言葉に呆然として、思わず管理人レプリカを凝視してしまう。
…いえ。生まれた場所に興味はありません。けど、まさかこんな形で出生がわかるとは予想外にも限度というものがありまして。

「ユノ…大丈夫?」
「っ…!?」
ティアを始めとした全員から向けられる、慮るような視線。
何故だか顔が紅潮していたたまれなくなって…慌てて前線に歩み出ては、道化のように笑って見せます。

「なんて顔してるんですか、どうでもいいことですよ?
 大体この人はあいつじゃないし、特別な感情とか何もないですし」
「でも…」
「気遣わないで下さいよ、感傷に浸らなきゃいけなくなるでしょう?」

浸る感傷なんかないんです、本当です。
そう訴えても、向けられる視線。痛いやら腹立たしいやらで、私は後に後悔するほどの奇行を開始しました。

「ほ、ほら!全然大丈夫ですよ、握手だってできますし!」
「…?」
驚く管理人レプリカの手を握る。
にこやかに接してみせると、彼は戸惑いがちに首を傾げた。…ほら、全然違う。顔が同じだけだ。他はなにもかも違う。

ね?と確認を求めるようにルークたちへ振り返る。
…その直後。
静寂を切り裂く凄まじい爆音とともに、右手に存在していた質量が、一気に消滅した。

「………えっ」
全身に降りかかる熱い液体。
振り返った目の前で倒れていく、いくつもの肢体。
引き裂かれて倒れ伏した、目の前の体。

呆然と空を見上げると、そこには。

「愚かなレプリカども!モースの導きなど、何万年待ったところで来ませんよ!!」

上空に浮かぶ、金属の巨体。
響く耳障りな声は誰何の必要すらない。…こいつ、本当に何がしたいんだ。

「ディストッ!何するの、やめなさい!!」
次々にレプリカたちを撃ち抜いていく機械の銃。ティアの叫びを、ディストは哄笑と銃声で掻き消した。
飛び出してきたナタリアと共に、その凶弾からレプリカを庇う。

「そうは行きませんよ。ここのレプリカどもを始末しないと、ネビリム先生復活の研究に着手できませんからねえ」
「…監獄から逃げ出したと思えば、まだそんな愚かなことを!」

珍しく声を荒げるジェイド。
それを聞き届けたらしいディストは、レプリカへの攻撃をやめ、真摯な顔で彼と向き合いました。

「ネビリム先生を甦らせれば、きっと貴方も昔のジェイドに戻る。そうでしょう?
 さあ、ジェイド!先生とともに、もう一度あの時代を…!!」

…狂ってる。
恍惚とした子供のような横顔を見ながら、呆然とそう認識した。

「今まで見逃してきた、私が甘かったようですね」
ジェイドが自嘲気味に呟き、顔を伏せ。

「さようなら、サフィール」

ディストにとって死刑判決にも等しいだろう言葉を宣言した。
かっと紅潮するディストの顔。
私を見捨てるんですね。聞きようによっては憐れな呟きを最後に、彼は無骨な機械人形の内部へと消えていきました。

「なら、私も本気で行きますよ!
 このカイザーディストXXの力で、レプリカどもと一緒に滅びるがいいっ!!」

高らかな宣言と共に、機械の奥から巨大な銃口が登場する。
「来るぞっ!」
ルークが叫び、後衛を庇う位置に躍り出る。
そして幾つもの銃弾を受け流しながら、私達を仰ぎ見て指示を飛ばしました。
「アニス、ユノ!レプリカたちを!」
「うんっ!」
「…」
トクナガを巨大化させたアニスが、呆然と立ち尽くすレプリカたちを隅のほうへ追いやります。

そうです。
今は、戦闘メンバーとは他に流れ弾からレプリカを庇う人間が必要なんです。
それはわかっています、けれど…。

「ユノ」
すぐ傍から聞こえてきた声に、かすんでいた視界が色を取り戻しました。
弾かれたように声の元を見ると、隣には無表情でディストを見据えるティアの姿。
彼女は薄く微笑んで私を一瞥し、「行って」と短く言い放ちます。

「ディストは、大佐と…貴女が倒すべきだわ。
 レプリカの護衛は私が替わる。…だから早く」

目の前で繰り広げられる死闘。
軽く拳を握って、そしてティアへと視線を戻します。
…こういうとき、なんて言えばいいんでしょうね。

「…落ち着いたらケーキ奢ります」
「紅茶もセットでお願い」

なんだ。結構、言うじゃないですか。

互いに笑みを交わした直後に、地面を蹴る。
そしてジェイドへ迫っていた弾丸を長杖の先端で打ち払い。

「上司の不始末は部下の私がつけます。…覚悟してください、ディスト!!」

瞬時に完成させた譜術を、ジェイドと全く同時に放つ。
降り注いだ瀑布が、ディストの操る機械を大きく揺るがします。

声にならない彼の絶叫に、走馬灯のごとくかつての彼の姿が脳裏を過ぎりますが。
もう容赦はしません。
この私が、全力で叩き潰します。
…たとえディストが、あの時のような黒い骸になろうとも、です。


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