冗談抜きで笑えない


「ネガティブゲイト!」
即行で完成させた闇の譜術が、立ち並ぶゴーレムたちを襲う。
数体が静かな奇声を上げて動かなくなったものの…数は全く減った様子がない。

「ちょっと、私だけに戦わせないでくださいよ!?
 なんのために一緒にいるんですか、あんたたちは!」

接近してきた小型のゴーレムを、長杖のフルスイングで打ち払う。
その勢いのまま振り返って叫ぶと、背後で傍観モードに入っていた二人組が不服そうに声をあげた。
ノワールに至っては階段を諦めて戻ってしまっている。もうツッコむ気力が足りない。

「だってホラ。オイラたち、もう結構トシですし」
「じゃあ特攻しろ!無駄死にしろ!」
「…無駄死に?そういえば、アッシュの旦那もそんなことを…」

話題を変えられた。
歯噛みしつつも、転換先の話題には少なからず興味があるので黙ります。

「もう時間がない、とかなんとか。
 無駄死にするくらいなら障気と心中してやるとか、言ってたような」
「…は?」

ようやっと片付いた魔物たち。
疲労で座り込みつつも、初耳すぎる言葉に呆然と耳を傾けます。
…『時間がない』?
なんですかそれ、初めて聞いたんですけど。

「訳わかんねーですよ、まったく。けどまあ、放っとくわけにもいかんですね」
「ユノさん。ホラ、立って立って」
「…いい加減キレますよ、私」

ちょっとくらい休ませろと言いたい。
「休んでから行きます。先行っててください」
熱い息と共に言葉を吐き捨てた私と、不服そうに先へ登っていくヨークとウルシー。

その背を見送り、再び息をついて。
床に根が生えてしまうより前に、とりあえず立ち上がります。

「…無駄死に、か」
アッシュの奴、なにか持病でもあるんでしょうか。
だけどそんな素振りは今まで全く…

「あ、ユノ!」

下方から聞こえてきた声に、振り返る。
「!…あら、皆さん。奇遇ですね」
ぞろぞろとあわただしく階段を登ってきたのは、ルークたちご一行。
先日はいなかったジェイドとナタリアの姿もきっちりとあり、全員で私と同じフロアで立ち止まりました。

「ユノもアッシュを追っているんですの?」
「…はい。ウルシーとヨークが先行しています」
"も"、というと彼らもアッシュを追ってきたのだろう。好都合だ。

「アッシュはレプリカたちと心中する気なんです。
 …それ自体は、ともかく…一人で勝手に死なれるのは納得いきませんから」
「…」

黙り込んだティアから何事か言いたげな、切実な視線が向けられます。
私は黙殺でそれを無視し、かぶりを振って。
「私も皆さんと同行していいでしょうか」と続けます。
即座に頷く面々。
その反応に安堵していると、ジェイドからティア以上に意味深な目線が向けられていることに気付きました。

「…なんですか?」
「いえ」
微笑して、首を振るジェイド。

「しばらく見ない間に、随分と変わったものだと思いまして」

…放っておいてください。



「もー、折れそー。いろんなモノが折れそう」
階段を延々と登り続けてどのくらいが経ったでしょうか。
げっそりと肩を落としたアニスの声に、幾重もの溜息が重なります。

「昇降機、何度も往復してるしぃ。これ、待ってたほうがよかったんじゃあ…」
「言うな。それ以上何も言うな」
言葉を遮り、深々と頭を落とすガイ。どうやら禁句だったらしい。

「アッシュはもうたどり着いてますね。あの人、昇降機使ってたんで」
「はうあ!じゃあマジで時間ないじゃんっ」
目を剥いたアニスが速度を上げ。…そしてすぐに、立ち止まりました。
何故なら、螺旋階段が終わっていたからです。
けれどそこは頂上とは到底思えず、鉄製の柱も梁も上空へ未だに続いていて。

「どうやらこの塔は建設途中のようですね」
「放棄されたってことか。こんな時じゃなければ、調べてみたいが……ん?」
残念そうに周囲を見渡していたガイが、一点で視線を固定します。
その先には、作業用と思われる小さなリフト。

いち早く向かっていったルークの後ろで、ジェイドが大仰に肩をすくめてみせました。

「どこまで登ればいいんでしょうかねえ。そろそろ楽をしたいものです」
「…大佐が一番疲れていないように見えますけど」
胡乱なティアの視線にさらされても尚、ジェイドは臭すぎる演技を止めず。
それどころか咳き込んでなどみては、「生まれつき体が弱くて」などとほざく。

「…デモンズランス?」
「やめなさい」
アニスの裏手によるツッコミを受けながら、乾いた笑みを浮かべます。
いやもう、冗談抜きで笑えないんですよ。
冷徹無比マシーンはユノ・リーランドじゃなくてジェイド・カーティスではなかろうか。

「おい、お前ら!何してんだよ、先行っちまうぞ!」

リフトの中からルークが叫び、その隣には仏頂面のナタリアが控えています。
慌てて全員で乗り込んで、シャッターを閉める。
のろのろと登っていく小さなリフトを、頑丈そうな昇降機が追い抜いていきました。


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