似すぎだろう


「あのさ。…あんまり、気にしなくていいと思うよ」

ルークとアッシュを待つ間、アニスが私の裾を引いて囁きかけてきました。

「ティアと険悪なのって私とかアリエッタのせいなんでしょ?
 …でも、ユノは知らないかもしれないけど、アリエッタのことはもう…」
「知ってます」

早々に断言した私に、アニスが丸く目を見開きます。
まっすぐに私の姿を反射するその瞳を正面から見下ろしながら、どこか投げやりな笑みを浮かべ。知ってます、と再度呟きました。

昏い眼差しに何かを悟ったらしいアニスは、うつむいて「そっか」と囁き。

「私、あの場にいなかったけど。だけどアンタが何言ったか、だいたい分かるよ」
「はあ」
「ユノってさぁ、意外と真面目腐らしてるよね。
 面倒がってダルそうにしてるくせに、口から出るのは正論ばっかでさぁ」

マジですか。

「まあその辺はティアと似てるってことなのかな」

悟ったような口調は勘に障りますが、それどころではなく。
「…ティアと似てる?私が?」
思わず話半分に聞き流していた彼女の言葉の、一部分を反芻します。
聞き捨てならない。文字通り。

「正反対じゃないですか。生きてきた環境も、考え方も。
 相容れる可能性がないくらい、決定的に―…」
「そうそう。正反対」

したり顔で笑うアニス。
…この子のこういう妙に大人っぽいところ、苦手です。

「円も四角も、正反対にしたら同じでしょ。そういうことなんだよ」

どういうことですか。
思わせぶりというか、比喩表現だらけでワケがわかりません。

いい加減苛立ってきて、どう問い詰めてやろうか思案を始めたとき。
真横にあった扉が開いては、朱色がかった赤い髪の青年が一人だけで中庭へ入ってきました。

「あっ、ルーク!用事ってぇ、アッシュをパパとママに会わせるってことだったんだね〜」

私の前をするりと抜け、ルークに駆け寄るアニス。
逃げられた。歯噛みしながらその背を睨みつけると、ふと振り返った彼女のウインクが目に入ります。殴りてえ。

「でも、よかったのルーク?あなたはアッシュがこの家に来るのを…」
「怖がってた。その通りさ」
自嘲ぎみに笑い、真摯なティアの視線から目を背けるルーク。

「でも…俺はやっぱりレプリカで、あいつは本物だから…いつかいらないって言われるなら、」
「やめとけ。ルーク」

怒気たっぷりの唸り声に、ルークが顔を上げ。
そして険しい顔で自分を見つめている親友の顔を、じっと見つめます。

「おかしいと思ってたんだ。
 この間から考え込んでたのは、自分を殺して障気を消そうなんて考えてたからだろ」

アニスとティア、ミュウが息を呑む。
…私は、そうですね。話を聞いた瞬間からなんとなく解ってたので、それなりの反応で。
「ルーク、馬鹿なことを考えないで!」
泣訴の勢いで詰め寄るティアから目を逸らし、ルークが唇をかみ締めています。

「俺、自分がレプリカだってわかってから…ずっと考えてたんだ。
 俺はなんのために生まれたんだろう、俺は何者で、なんのために生きるんだろうって」

「…それで?」
突然口を挟んだ私に、ルークを始め全員の視線が向けられます。
…ガイ、その顔のままで私を見ないでください。怒られてる気分になるので。

「障気を消して、貴方が死んで。それでどうなるの?
 …言っておきますけど、死んだ人間が遺せることなんかたかが知れてますよ」
嫌悪交じりに言葉を吐き出す。
ルークはそれでも、と荒げた声で反論し、歪んだ顔で続きを叫びます。

「それでも、俺は…レプリカは、ここにいちゃいけない存在なんだ!」

「…ッ」
予想通りの答えだった。こう反論するだろうと思ったうえで、言葉を吐いた。
…のに、変ですね。
私、どうしてティアと同じような表情してるんでしょうか。

「お前なあっ…いい加減にしろ!」
力任せに叫ぶガイ。全くだな、と続けられた声に、沸騰寸前だった場の空気が少しだけ冷えるのを感じます。

「…アッシュ。もういいのか…?」
「俺はもう"ルーク"じゃない。この家には戻らない」
問いとは若干逸れた返答をしつつ、アッシュは集団の中央を横切ります。
その一瞥は冷ややかで、刃物のように鋭い。

「馬鹿なことを言う前に、その卑屈根性を直したらどうだ。…苛々する!」

黒衣を翻し、立ち止まらずに玄関へ向かうアッシュ。
「…」
私はというと、一応彼の背を追いました。
けど、…納得できないというか、消化不良な気分です。気持ちが悪い。

「…では、皆さん。また後ほど」
「うん…」
「さよならですの…」
返答する余裕があったのは年少二人だけのようでした。

何度目かの重苦しい空気に包まれたファブレ邸をあとにし、バチカルの街を歩きながら。
一言も喋らないアッシュの背を見ながら、ふと思います。

あの場にナタリアかジェイドがいてくれたら、ここまで酷くはならなかったんじゃないかと。

「…おい、ユノ。聞いているのか?」
「え?…うわっ!」
眼前にあったアッシュの仏頂面に慌てて立ち止まり、若干跳び上がりました。
いつの間にか立ち止まっていたらしいです。が…言いましょうよ!ぶつかるところだったでしょう!

「ギンジと合流したらベルケンドに行く」
「…ベルケンド?」

あれ、嫌な予感がする。

「スピノザに会う。障気中和の件は、あいつが一番詳しいだろう」
「っ…!!」

ちょっと、似すぎだろう。この被験者とあのレプリカは。
「いいんですか?」
「…」
アッシュは何も答えなかった。
進んで死にたいわけがない。死にたくないと、つい先刻言い放ったのだから。
まだやることがあるから、と。
…じゃあその『やること』が終わったら、死ねるとでも言うような口ぶりで。

「…やることって、…それかよ」

どいつもこいつも、どうしてこう死にたがるんでしょうかね。
理解できません。


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