理不尽な命令


「え?いまさらバチカルですか?」

エンゲーブにて無事再会を果たしたアッシュの仏頂面に、パスタを咀嚼しながら向き直ります。
この村特製らしいです、ミソパスタ。
若干妙な味わいではありますが、なかなか美味しいです。


「バチカル付近ってセフィロトありませんよね?なんでまた」

「預言会議が開かれるらしい。様子を見に行くだけだ」

「会議ぃ?」


胡乱な目つきで応えながら、傍らに置いていたグラスから水を呷ります。
私が食べているなか、アッシュの冷たい視線が刺さるというのは随分と居心地が悪いのですが、まあどうでもいいのでスルーいたしましょう。

「どうせ王城には近づけないし、意味ないと思いますけど。……あれ」

ふと思い立って首を傾げ、眉根を寄せて苛立っているアッシュへフォークの先端を突きつけました。
「もしかしてナタリ」
「黙れ」
…とことん隠し事ができない人間だと思います。
今までも苦労して生きてきたようですが、今後もきっと苦難続きでしょう。
アッシュの未来に幸あれ。
結構興味ないので、私には関係ないのですけれどね。

ギンジとの合流場所は、エンゲーブ外れの平地。
私はパスタの最後の一本を嚥下して、空の皿を持って立ち上がりました。


*


場所は変わり、バチカル付近。
街から少し離れた場所に着陸し、アルビオールから降り立った私とアッシュは、いつにも増して人気の無い周囲を適当に見渡します。

「ノエルのアルビオールはありませんね」
「…あいつら、まだ来ていないのか?」

どうやら会議の正確な日取りは知らないらしく、アッシュも確信が持てない様子でした。
そんな彼がほどなくして浅く頭を垂れ、立ち尽くして完全に黙り込むのを無言のうちに見守りながら、すっかり慣れた障気の空を見上げます。

傍から見れば不審極まりないアッシュですが、十中八九"便利連絡網"を使っているのでしょう。
命名したのは誰だったか忘れましたけど、文字通りの的を射たネーミングだと思います。

けど、なんでしょう。
なんかアッシュ、滅茶苦茶機嫌悪くなってる気がします。

「…えーと、アッシュ?大丈夫ですか?」
「……」

当然のように応答はありませんが、その横顔は不機嫌そのもの。
連絡が完了したのち、私にどんな飛び火が来るかわかったもんじゃないです。
暫くして顔を上げたアッシュに、どう声をかけたものかと珍しく戸惑っていたところ、アッシュはこれまた盛大な舌打ちを残して、すたすたとバチカルの街へ進んでしまいました。


「これからあのレプリカに会いに行く」

「はあ。街でですか?」

「…ユノ」


私を射抜く、過去最上級に恐ろしい眼光。

「これから行って、街を出るまで。絶対に俺に話しかけるな」

そして過去最上級に理不尽な命令でした。
なんなんですか、もう。
ジェイドといいアッシュといい、どうしてこう私は八つ当たりの矛先を向けられるんですか。

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