どこへ行った


「あまり気に病む必要はありませんよ」

ティア、ルーク、ナタリアが退室し、室内の人数は五人。

露骨に機嫌の悪い顔をしている私を見かねたか、
ジェイドが励まし…励まし?の声をかけてきました。


「一概に間違ったことを言ったとは思っていませんから」

「…ふーん」


あまりに似合わないのであれですが、本当に励ましているみたいです。
別に落ち込んでないですけどね。
うんざりした目つきでジェイドを見上げていると、
ふいに熱を持っていた頬に冷たい感覚が走りました。…氷嚢、ですかね。


「腫れたら大変だ。冷やしとけよ」

「はあ」

「…俺は、さっきの言葉、よくなかったと思うけどな」


一定の距離を持って氷嚢を差し出すガイが苦笑します。


「ティアが怒るのも当然だ。それは判るだろう?」

「…」

「君はつくづく間が悪いな。ルークの時といい、ティアといい…
 正論すぎる。それを咎めるつもりはないが、…やっぱりよくないよ」


彼の脳裏に浮かぶのは、あのレプリカでしょう。
私が殺そうとした敵。
彼の姉と全く同じ見目を持つ、あのレプリカ。


視線を滑らせ、ベッドに座って俯いているタトリン夫妻へ向けます。


愚直であることは罪。
口に出さずとも、私は彼らに対して確かにそう思ったのです。
さすがに私と一緒くたにするのは失礼かもしれませんが、理屈は同じでしょう。

まさか跳ね返ってくるとはね。
びっくりです。

でも。


「私は謝らない」

「…」

「だけど、…謝ってもらいたくない。ティアに理解してほしくない」


それは決して悪意ではありません。
彼女は私にないものを持っている。だから、私の思考を理解するために
それを無為に捨ててほしくない、…そういうことだと思います。

あーあー馬鹿みたい。

何お姉さんっぽいこと考えてるんです、ユノ・リーランド。
当初の無気力どうでもいいキャラはどこへ行ったんですか。


「ジェイド。あなたたち、これからどうするんですか?」

「…そうですね。ルークとアニス次第ですが…ベルケンドでしょうか」

「私、抜けます」


ぎょっとしたように顔を向けるジェイドとガイ。
かなり貴重な表情ですね、面白い。…では、なくて。


「少し考えさせてください。
 …そうですね、折角機動力もありますし。アッシュでも探してます」

「アッシュを?確かに見つかったら助かるが…」

「パッセージリングを調べているんでしょう?順に回ってみます」


半ば逃避するように成された提案に、ジェイドはしばし思案します。
そしてふいに顔を上げ、頷き。いいでしょう、と答えます。


「アッシュが見つかれば助かります。
 …が、ルーク達への説明はご自身でお願いしますよ」

「それはまあ、当然ですね」

「決まりか。…ちょっと残念だな」


この期に及んで軽口を叩くガイに失笑し、夫妻に挨拶をして退室します。
比較的緩慢に廊下を歩み、大聖堂。
そこにはナタリアとティアが立っていました。
…もっとも、後者には即座に顔を背けられましたけど。

僅かの時間、沈黙が続き。

ほどなくすると、礼拝堂から泣きはらした顔のアニスと、それを支えるルークが現れました。

安堵の空気にアニスは笑います。
毅然と。健気にも、枯れた涙を見せることなく。


…よかった、ですね。


案の定、行き先はベルケンドとなるそうでした。
イオンくんの最期の預言を活用してほしい。アニスきっての願いだそうです。


「…じゃあ、私は手始めに雪山にでも行きますね」

「気をつけてくださいね。凶暴な魔物もおりますし…」

「アッシュの奴を見つけたら、俺に連絡するよう伝えてくれよ」

「はいはい」


長杖に腰を落として浮上するまで。
ティアは終始うつむきながらも視線を私に向け、なにやら言いたげでしたが…
…まあ、今後再会することは確定ですから。
今聞かずとも良いでしょう。

それに、それなりに折り合いがつくまで彼女と会話したくないですし。


「それでは皆さん。また今度」


= = = = =
次からなかがき


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