落ちぶれては


「く…一番出来のいいレプリカだったが、
 やはり正しい預言は詠めなかったか…!」


重い沈黙を破ったその声に、
虚空を抱くように蹲っていたルークが立ち上がりました。
憎悪を悲しみと混じらせた様子で、眼前の仇敵へと叫びます。


「預言預言預言!馬鹿の一つ覚えみたいに…っ
 そんなものがなんだっていうんだ!預言がなくても人は生きていける!!」

「ば…っ馬鹿を言うな!
 預言の通りに生きれば、繁栄が約束される。
 それを無視する理由がどこにあるというのだ!」


顔をゆがめて反論するモースですが、その声とは裏腹に
身体は退路へ向けての移動を始めていました。

無言でジェイドを見つめると、静かに返された肯定の頷き。
私はそれを視覚したと同時に地を蹴り、その醜い背へ追撃しようとしました。


…しました。
つまり未遂です。できませんでした。

向けられた銃口とモースの間に身を躍らせた人影。
ゆっくりと確認するまでもない、レプリカです。

「ユノ!やめて!!」

ティアの叫びに反射的に攻撃を躊躇うと、眼前のレプリカたちは
長杖を掴み、地面に叩きつけ。
あ、と声を出した私の側頭部をも続けて叩きつけました。

…痛い。

モースの喚きを聴く余裕なぞありません。
両腕も固定され、本当に身動きが取れない状態になってしまいました。
面倒臭いな、譜術でぶっ飛ばすか。
そう思った瞬間、何故か彼らは手を引いて立ち上がります。


「その人たちは指示する人間がいない限り、何もしません。
 …大丈夫ですか、ユノ様。お怪我は…」


傷だらけのパメラが歩み寄ってきて、私に手を差し伸べます。
…が、まあ。それを取るほど落ちぶれてはいませんよ。
即座に立ち上がって長杖を拾い、服についた埃や灰を払います。

「逃げられましたね。残念です」

立ち尽くす一同の輪へ戻りながら大仰にそう言うと、
ティアの目が向けられました。あまり好意的ではない視線です。
どうでもいいですけど。


「ヴァンの残したフォミクリーのレプリカ情報だろう。
 …さっきの中にも、ホドの住民らしき姿のやつがいた」


暗い面立ちのガイ。
誰も異論はないらしく、否定も肯定もせずに沈黙を貫きます。

しかし流石年長者というべきか、ジェイドが口を開きました。


「詮索はあとにして、まずはご夫妻をダアトへ送りましょう。
 …アニス。貴女も、それでいいですね?」

「…………はい」


消えるような声で返事をしたアニスの目に、光はありませんでした。

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