その見目に


第四丘碑までたどり着いた時に、
ルークが悲鳴のような叫びをあげました。

混乱しているのは誰もが同じ。

死んだはずの六神将やヴァンの復活、障気、アニス、ティア。
そして先ほど突破したレプリカたち。

動揺するのはわかります。
なので、今ここで立ち止まってしまうのも仕方ないことでしょう。


「預言のあり方どころではなくなってしまいましたわね」


自嘲するように薄く笑ったナタリアに、ガイが虚脱します。
彼が一番案じているのは先ほどのレプリカでしょう。
姉上。
以前も話題に出た、彼を庇って死に、ホド崩落に巻き込まれた人間。

会うだけでも相当な動揺があっただろうに、現在は敵同士。
…混乱するのは、わかるんです。これは本当に。
被験者とレプリカを同一視してしまうのは理解できるんです。
だってその見目に相違はないのですから。


「わたくしたちが躊躇うのも計算済みとは。なんと非道な…!」

「…だけど、効率的だとは思います」


怒りに震えるその背に呟きを落とすと、
掴みかかってきたのはルークでした。いやなことを言うな、と叫び、
泣きそうに歪んだ目で私を見据えます。


「さっきも、将軍のレプリカを殺そうとしてただろ」

「ええ。それが何か」

「なんでだよ…!なんで、そんなことができるんだ!」

「はぁ…?」


いえ。
むしろ、何故怒られるのかが全く理解できないんですけど。

声に出さずともその内情は彼に伝わったらしく、
ルークは怒りよりも失望と悲しみを表しました。…なんかぐだぐだです。
しかしいつまでも掴まれているのは不快なので振り払おうとしますが、
間に割って入ってきたジェイドによって手間が省けました。


「ルーク。貴方も分かるでしょう。ユノの言うことが真理です」

「でも…!!」

「もうティアに譜歌は頼めない。次に鉢合わせた時は覚悟してください」


青い顔で、立っているのもやっとといった様子のティアに
ルークが苦々しく唇を噛みました。
彼とて、あれがレプリカであり敵であることは理解している筈です。
まあどうなるかはわかりませんが、
少なくとも私の妨害はしないでしょうからどうでもいいでしょう。

襟に込められた力が萎縮するように抜け、体制が元に戻ります。

「……ごめん」

俯いたルークが小さく詫びますが、それはともかく。
無駄な時間を過ごしてしまいました。


しばらく丘を進むと、アルビオールの機体が見えてきました。


障気に戸惑っている様子のノエルに迎えられ、
簡単な状況を説明します。イオンくんが危ないとの宗を聞くと、
彼女は深刻な面立ちで静かに頷きました。


「大丈夫です。火口でもなんでも、着陸してみせます」


その言葉に嘘はなく。
気流やらなんやらで豪快に揺れたものの、
アルビオールは無事ザレッホ火山の火口へと飛び込み、着陸しました。

降り立った瞬間に吹き上げるような熱気。
一同の顔が引き攣り、息を浅くします。


「…以前より暑くなっている気がするわ」

「魔界へ落ちてからの火山は、以前より活性化しているそうです」


ティアの手をとって段差を降りる補助をし、簡単に説明を述べると、
知らなかったらしいルークが感心したように吐息を漏らしました。
…いいんですかね、それで。


「イオンはパッセージリングだったな」

「ミュウがわかるですの。こっちですの」


ルークの手の中にいるミュウが、短い腕を通路の方向へ伸ばします。
真っ先に歩き出したジェイドに倣い、足を進めました。

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