それははたして


教会で詠師と会話をし、アリエッタの生存とタトリン夫妻の不在を確認し。

…会話の間彼らを待たなければならないのは非常にもどかしかったですね。
証拠とか裏づけとか、いらないでしょう。
目の前の敵は殲滅して、物事は手っ取り早く片付けるべきです。


外はひどい有様でした。
以前見た魔界と大差ないだろう量の障気が立ち込めていて、
少し先の視界も満足に確認できないほどです。


「くそ…これもローレライが閉じ込められているせいなのか?」

「だとしたら、ヴァンは」

「兄さん…本当に、生きているの…?」


ティアが不安げに呟いた後、激しく咳き込みます。
…ここまで障気が充満しているんです、咳も出るでしょう。
長い間屋外にいるのは危険なのは見ての通り。
早急に火山へ行って豚をぶち殺す必要があります。

…しかし、本当に不快ですね、これ。
私ですら頭痛や耳鳴りがしますから、ティアの負担は相当なものでしょう。


「私は平気よ。早くイオン様を追いかけましょう」

「ティア…ごめんな。俺、何もしてやれなくて」


彼女の背を支えながら、ルークが痛ましげに目を伏せます。
しかし時間がないことは周知。
結局ティアを休ませることもなく、足を進めていた時でした。


前方に立ちふさがる、人の壁。

皆が一様に無個性な布を纏い、表情のない顔で道にそびえ立っています。
見覚えのある光景でした。
最も、今はその手のひらに爆弾など握られてはおりませんが。

先頭のルークが立ち止まり、壁の最前列にいる老人へ目を奪われています。

…ああ。見覚えがあります。
確かシェリダン港でヴァンに殺されていた老人ですね、多分。


「レプリカ」


呆けたようなジェイドの呟きに、ナタリアが勢いよく振り返ります。
そして信じられないとでも言いたげに目を見開き、
改めて眼前の壁を見据えました。

…レプリカ、でしょうね。フリングス将軍の顔もありますし。


「彼らはレプリカではないでしょうか。
 以前、レプリカを軍事転用するために特定の言動を刷り込む実験をしていました。
 …彼らの目は、その被験者たちによく似ています」


その説明が終わるのを待ちかねたように響く、女の声。
目標発見、捕捉せよ。

その言葉を皮切りに壁は変動を見せ、私たちを円形に取り囲みます。
…モースの奴、随分と簡単な足止めを考えましたね。

ルークたちだけだったなら、きっとかなりの時間を稼げたことでしょう。

しかしそんなことは私には関係ありません。
レプリカだろうがなんだろうが、結局は敵、壁、障害物。
全部ぶっ壊してでも、押し通ります。


「ま、待ってくれ!ユノ!!」

「きゃっ…!」


手近な金髪の女に銃口を向けた時、ガイに肩を捕まれました。
うわ、ガイから触られた。そんなことを思う暇は勿論ありません。
鬱陶しい思いで彼を見上げると、その目は眼前の女に向けられていました。

「姉上」

その言葉に素早く反応したのはルークでした。
ガイ、お前なにを言っているんだと。
確かに目の前の女は幼く、ガイの"姉"ではありえない風貌をしています。

…あー、いえ、どうでもいいです。


「"あれ"は貴方の姉じゃない。レプリカです」

「だけど!」

「ッ…うるさいなあ!早く離せよ!」

「ユノ!!」


明らかな非難の声に、舌打ちします。
意味がわかりません。何故躊躇うのか、全く理解できない。

彼らだって多くの兵や野盗を殺めている。
敵がただ知っている顔をしているだけ。それだけなのに、何故憤る?


目の前で構えられた武器を見て、本当に混乱しました。
こんなにも近い悪意や敵意を向けられて、何故情に絆されて戦わないのか。
このまま殺されてもいいっていうんですか…!?


「…ユノ、ガイ。下がって」

人の合間をすり抜けたティアが、酸素を吸って喉を震わせます。
ナイトメア。
抗えない睡眠効果をもつ譜歌が響き、
レプリカたちはまばらに地面に突っ伏しました。

安堵する一同に応えるように、倒れるティア。
体調不良を押して頑張ってくれたようですが、
それははたして必要な頑張りだったのでしょうか。

……ああもう、いらいらする。


「急ごう!ノエルはダアトの外で待っててくれてるはずだ」


その声の後は、無音の時間が流れていきました。

prev next

戻る
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -