未だ変わりは


そこからは全力疾走です。

移動用の譜陣に飛び乗って移動した後、目に入ったのは。


「…あら、リグレット。お久しぶりですね」

「ユノか」


神託の盾を引き連れている旧知の姿。
リグレット。姿を見たのはケテルブルクの遠目以来ですから、
随分と久しぶりですね。凄まじくどうでもいいですけど。


「今おまえたちに動かれては迷惑なのだ。
 …それにローレライの鍵についても問いたい。大人しくして貰おう」


何のたまうんですかね、この女。
別に障気とかはどうでもいいですが、命令に従うのは御免です。
大人しくなんかするわけない。
皆殺しにしてでも押し通ります―…ムカつくから。


そう思った時、広い部屋に響き渡る咆哮。


反射的に全員の視界が揺らぎ、正面扉へ集中します。
そこにはこれはまた久しいライガに跨った少女、アリエッタでした。
彼女は敵意を孕んだ目をリグレットへ向け、
立ちふさがった神託の盾の雑兵を一閃のもとになぎ払います。


「イオン様に何をさせるの。リグレット」


相変わらず舌足らずな声ですが、確かに殺意が宿っていました。
リグレットは露骨に面倒そうな顔をしましたが、
あやすようにアリエッタを諭します。
…多少馬鹿にされていることは、流石の彼女でも気付いたでしょうね。


「イオン様に惑星預言の詠み直しをさせるって、本当なの!?」

「っ…!?」


アリエッタの叫びに、ルークを初めとした一行の顔が強張ります。
惑星預言。
もともと預言を詠む際には第七音素が消費されるものですが、
そこまで大掛かりなものとなればその消費量は他とは桁違いのものとなります。

それを体の弱いレプリカの彼が、詠んだりしたら。


「体の弱いイオン様は死んでしまう。そんなの、アリエッタは許せない!」

「モースを釣るにはそれが一番簡単なエサよ、どうしてわからない?
 貴女が望むフェレス島復活のためにも必要なことで、」


ルーク、と。
アリエッタはリグレットの甘言を打ち払うように叫び、
ライガと共に私達の退路を拓き、リグレットの前に立ちふさがりました。


「イオン様は、アニスがダアトのセフィロトへ連れてった」

「アニスが!?」

「アリエッタ、裏切るの!?」


リグレットの叫びに、アリエッタが喚き返し。
…途中から耳が痛くなってきたのであんまり聞いてませんでした、すみません。

こんな会話を聞くくらいなら早くイオンくんを追ったほうがよくないですか?


「ルーク、例の隠し通路へ行きましょう。
 確かにアニスの言動はおかしかった」

「わかった。…アリエッタ、ありがとう!」


真っ先に駆け出したルーク、続いたのはジェイド。
遠ざかる背後からの銃声を気にとめず、教団の廊下を駆け抜けます。

白々しい、とつくづく思います。

確かにおかしかっただなんて今気付いたような言い方。
本当はずっと前から大体のことは察していたはずですがね。

…まあ、それは私も同じことですけど。


*


過疎化した資料室に駆け込むと、そこには三人の人間がいました。
…ああ、二人と一匹?ですかね。

「ぬぅ…リグレットめ。こんなガキどもすら足止めできんとは!」

憎憎しげに呻いたモースは、黙り込んでいるイオンくんの背を押し。
そしてうつむいているアニスへ、鋭く傲慢な指示を飛ばします。


「アニス!ここは任せたぞ。裏切ればオリバーたちのことは分かっているな?」


口ぶりからして、アニスはあの愚直な両親を盾にされているのでしょう。
抵抗せずに黙って頷き、モースが去るのを確認してから顔をあげた彼女は、
それはもう嫌そうな、泣きそうな顔をしていました。

…ええ、私には関係ありませんけど。
指先の硬い感触を確かめ、前方のアニスを見据えます。


「アニス、オリバーさんたちがどうしたっていうんだ!?」

「うるさいな!
 私は…私は、元々モース様にイオン様のことを報告するのが仕事なの!!」


やけになって喚き、アニスは背負っていたぬいぐるみをガイへ向けて
投げつけました。その一瞬の隙を突いてか、豚を追って姿を消してしまいます。

…惜しかったな。あと少し遅かったらうまくいったのに。


無駄だとはわかりつつ、譜陣の上へ立つルーク。
案の定反応は微塵もなく、完璧に逃げられたことを告げていました。


全員が動揺している様子ですが、ティアは冷徹に私を見つめています。
あー、あれかな。見えてたかな。流石ですね。


「"ザレッホ火山の噴火口から通じる道あり。ごめんなさい"…か」
投げつけられたトクナガにくくりつけてあったらしい手紙を読んだガイが、
長く深い溜息をつきます。「人質がいるみたいだな」と呟き、頭も掻いて。


「とりあえず、アニスを信じよう。
 アルビオールなら火口から突入できるはずだ」


再びの疾走。
教団を走り抜ける間、ティアがじっと私から目を逸らさないのには気付いていましたが、
まあ特に興味もないので無視しましょう。

大したことはしてません。
ただアニスを殺して押し通ろうと思っただけです。
皆殺しにしても押し通る。その感情に、未だ変わりはありませんから。

…むかつくな。
リグレットも豚も、きっとヴァンも。みんな。

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