奇跡的に弱りきった


宮廷前へ差し掛かった頃に、ガイと別れ。
すっかり慣れてしまった門を潜り、扉を押し開けた瞬間、それは始まりました。


「おお、お前たちか!ちょうどいいところに来た!」


他でもない皇帝の出迎え…というか、玄関前を通りかかっていた様子ですが。
私達を見るなり目を輝かせたピオニー陛下に、
ジェイドの横顔が引き攣りました。

「さて、今回の任務だが」
「…俺達、まだ引き受けるとも何も言ってないんですけど」

応対する暇すら与えない陛下に、げっそりとしたルーク。
彼らもこの男の身勝手や奔放さには慣れている様子ですね。
…可哀想に。


「細かいことは気にするな。実は俺のブウサギたちが逃げ出したんだ。
 恐らく城の中にはいると思う、探してくれないか」

「私達はブウサギを探しにきたのではありません」


ジェイドの声に、何度も頷いて同意を示す一同。
陛下は心外だとばかりに目を見開いて、おおきくかぶりを振ります。


「じゃあ聞くがな。可愛いジェイドが階段から落ちて骨を折ったらどうする?
 はたまた、可愛いジェイドが厨房で丸焼きにされたらどう責任を取る」

「不気味なのでその呼び方はやめてもらえませんか」

「安心しろ、お前は可愛くないほうのジェイドだ。
 俺のジェイドはな、芸の覚えは悪いが毛並みだけはぴかぴかで」


その直後。
ぶちぃ、と何かが切れる音がしたかと思うと。
「探します、探しますからいい加減にやめてください」と、
珍しくというか奇跡的に弱りきった声のジェイドがうめきました。
満足げに頷く陛下。
強ぇ。

「そうか、わかってくれたか」

しかしブウサギの脱走ですか。
確か全部で五匹、でしたよね。全員で手分けすればすぐに終わるでしょう。


「逃げたのはジェイド、アスラン、ネフリー、ゲルダ、サフィール、ユノの六匹だ。
 見つけてくれたら礼はする、頼むぞ」

「一匹増えてやがるっ!何してくれてんだ馬鹿皇帝!!」

「ユノ!キャラ、キャラっ!!」


咄嗟に殴りかかろうとした私を羽交い絞めにするルーク。
ナタリアとティア、アニスの哀れむ視線がざくざくと突き刺さります。
…それよりジェイドの生ぬるい視線が、精神的にはきましたけど。

「…ま、まあ。とにかくっ」

アニスの空元気も、この時ばかりは心地よいです。


「お礼目指して、がんばろー!!」

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