ただ動くことも


それからの数日間は、壮絶なものでした。

駐在の兵士たちによる念入りな聞き込み、派遣調査。
ディストは勿論のこと、不審者から神託の盾すべてに至るまで、
それこそ過労死する者も出るのではと思わせるほどの強行軍です。

私も、まあ…言われたことはやりましたが、
やはり正規軍の皆さんには遠く及びません。
尊敬通り越して恐怖すら覚えるほどの頑張りでした。

そしてその全員が口を合わせ、
「ディストなんかに負けてられるか」「見つけてしょっぴいてやる」
など、怨嗟と私怨を滔々と繰り返しているんです。
嫌われてるなあ。
ジェイドの教育の賜物ですかね。


そして。
現在地、ケセドニア方面。


「いるといいですね。ディスト」
名目上は演習部隊ですが、実際は調査隊でもあります。
ケセドニア方面にディストが潜伏しているとの情報を受けての行動ですが、
…なんか嘘臭い、というか。きな臭い、ですかね。

そう簡単に居所を知らせるほどの馬鹿なら師団長になんかならないはずですし。
考えすぎですかね。
あの男は常々私の予想を遥かに越えた馬鹿っぷりを披露するからなぁ。
どうなんでしょう。

無言で先導していたフリングス将軍が、ふいに立ち止まりました。

「ユノさん」

彼が示した先には、軍隊。
演習部隊、…ですかね。キムラスカの軍旗を掲げています。
随分と人数が少なく、百人はいないでしょう。
おかしいですね。

「ええ、おかしいです。…ここはまだマルクト領のはず」
「それなのに軍旗を?ありえません」

やっと戦争の危機が去った頃なのに。
それに、人数や領地以前にもっと、あの"集団"は根本的におかしい。

軍服を纏うのは、前列の十数人程度。
彼らはただ動くことも身じろぐこともせず、こちらを見つめています。
淀んだ瞳で。
まるで虚空を見るように、こちらを見つめています。

将軍も訝しみ、何事か言おうと口を開きました。

そして、次の瞬間。


前方の集団からひとりが飛び出し、こちらへ全力で駆け寄ってきました。
あまりに突然のことで呆然としてしまいましたが―…
私は、確かに見ました。

その手に握られていたのは。

その人物は速度を緩めることなく、私たちの後方へ位置する人波へ突撃し。
行動する暇すらなかった軍人たちを、爆風によって空へ舞い上げました。


「……第五音素の、…自爆攻撃…」


はめられた。
爆薬の臭い、血の臭い、砂の臭い。
目の前にいる死の軍団を前に、私はあまりに冷静に、それを理解したのでした。

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