なんて言われた


ガイをその場に待たせ、
ブウサギを置いて戻ってくるまでの所要時間は約30秒でした。

頑張りました、珍しく。

「お、…お待たせしました…」
「いや、早かったな。…だいぶ驚いてるよ」

完璧に引いてる顔でした。
いえ、だってグランコクマに来てからというもの毎日走ってますからね。
…必死にも、なりますよ。


「土地勘がまだ薄いので、うまく逃げ切れないんですよね」

「仕事を逃げるのはどうかと思うんだが…」

「以前飛んで逃げていたらサンダーブレードが飛んできました」

「容赦ないなあ!」


たとえ宮廷といえど、働く人数はローレライ教団や神託の盾には及びませんからね。
一人ひとりの仕事が重要になってくるのだそうです。

3mほどの距離を以って、夜の貴族街を歩みます。
流石に人気はありませんね。グランコクマは比較的治安は良いものの、
貴族とは無条件に怨恨の対象となりやすいものですから。
…それに、預言という灯りのない中では外出は控えたいのかもしれませんが。

「バチカルはどうでした?」
「…変わってなかった、…とは言えないな。混乱してたよ」

でしょうね。
自らの踏む地が、宙に浮いていたというだけで驚愕でしょうし、
それを魔界に落とすなど。さらに預言まで奪われては、民衆は大混乱ですよね。
興味はありませんが。

「…そういえばさ、ユノ」
「はい」

真新しいガルディオス邸前で足を止めた私を、ガイが引き止めます。

「ユノは預言についてとか何も言わなかっただろう?
 …どう思ってるんだ?不安になったりはしないものかい」

はあ。
預言について、ですか。また面倒臭い質問ですね。

「なんとも思ってない…が、正しいですかね。
 私、あんな生い立ちなもので。きちんと詠んだことって殆どないんです」

むしろ一度しかないかもしれません。
導師守護役に任命される時。…確か、トリトハイム詠師が。
なんて言われたんでしたっけ。
あれ。


「…ていうか、ガイ。預言を詠む際に名前って必要なんでしょうか?」

「え?…いや、どうだろう。いらないんじゃないか?」

「そうですか」


ガイが屋敷へ入るのを見届け、帰路につきながら。

ふと、疑問に思いました。
私の本名って、なんでしょうかね。

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