ようこそ常識人


グランコクマの街は、港と密接していていいですね。

ダアトは街と港の間が離れすぎているので、
要人の送り迎えなんかは凄く面倒で大変な仕事だったのに。

楽でいいです。

バチカルからの定期便が来航しました。
外殻降下に伴い、キムラスカとマルクト両国間にあった緊張も解け、
王都と帝都を繋ぐ船まで出るようになったのです。

言っちゃ悪いとは思いますが、単純すぎますよね。
あれから一月も経っていないのに。

預言がなくなった今、娯楽を控えている人も多いようですが、
折角だからマルクト行きたい!というキムラスカの人間も少なくありません。

来航した船からは、多くのキムラスカ人が降りてきていました。

その波を眺めながら、見知った色を捜しますが。
やばいなこれ。全然わからんなこれ。
困ったなー。

「ユノ!」

見知った声に視線を走らせると、荷物を抱えたガイの姿がありました。
服は当然のように旅の間とは違うものでした。
…やっぱり顔を捜すべきでしたか。オレンジしか見てませんでしたし。

「…なんか失礼なこと考えてないか?」
「いえ全く」

無駄に鋭い勘から目を逸らし、改めて彼と向き合いました。
分かれて一週間ほどしか経過していないのに、随分と懐かしいです。
ようこそ常識人。
非常識が混沌と渦巻く帝都へ、ようこそ。

「しかし、見違えたな。それ、マルクトの制服だろう?」
「ええ」

服の端を持ち、袖や裾の青に目を走らせます。
神託の盾の制服とは趣が全く違いますからね。見違えるのも無理はありません。

「神託の盾の服も似合ってたけど、これも負けてないな」
「……どうも」

相変わらずおめでたい頭です。

「陛下から出迎えにと言われてるんです。早く行きましょう」
「ああ」

荷物を預かろうとすると、さっと身を避けられました。
いえ、いいんですけどね。持ちたくありませんし。

手ぶらのまま宮廷への道を先導します。

「教団のほうは、やっと落ち着きを取り戻したそうだ」

数度躊躇った末に出されたと思われる話題。
…ええ、そうですね。少し根に持ってはいました。

「サボリ魔がいない教団は、さぞかし清廉であるでしょうね」
「…なんだそれ、自虐か?似合わないぞ」

豚も査問会にかけられるとかで、現在は投獄中だそうです。
なんにしろ、今回の騒動は査問会も溢れるほどの人数が裏切りましたからね。
一人ひとりに構っている暇はないのでしょう。

「君が追い払われたのは仕方ないさ。イオンの気持ちも汲んでやれよ」
「?」

思わぬ単語に、立ち止まって。
ガイの目を見上げると、変わらぬ笑顔がそこにありました。

「イオンはユノが好きみたいだからなぁ」
「…知ってますよ。言われました」
「えっ!?」
「"親愛"だそうです。…勿体ないですよね、私なんかに」

目を剥いたガイを置き、再び歩を進めます。
慌てたように追いついてきたガイは、しばし黙り。

違うと思うよ、と。
風で消えるような、小さな声で、そう呟きました。

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