損ねたくありません


次会ったら殺す。
なんか口癖みたいになってますよね、この言葉。
ディストの奴。なんでこんなところに。絶対泣かします。

「さーむーいーっ!!」

アニスの叫びは、洞窟内で歪みながら反響し、私たちの耳に戻ってきます。
分かってる。同感です。寒い。すっげー寒いです。
でも口に出さないで貰いたいですね。

「敵襲ですわ!」

なんかやたらと魔物の多い洞窟です。
イオンくんをタルタロスに置いてきて正解でした。
ガイが抜けてから戦力は大幅に落ち、前衛後衛のバランスも滅茶苦茶です。
それにこの洞窟、やたらと足場も悪いので銃や弓は不利ですね。

「ユノ、何ぼーっとしてんのっ!そっち行ったよ!」
「えっ」

アニスの声で身を捻ると、私へ突進してくるバットの姿。
避けようかとも思いましたが、背後には詠唱中のジェイドがいます。
彼の機嫌は最悪でしょうし、できればこれ以上は損ねたくありません。
仕方ないですね。

長杖を振るい、篭っていた譜力をその場に霧散させます。
この洞窟、どうやら第四音素が豊富なようですから。
きっと第五音素の攻撃が効果的と思われます。

詠唱破棄。いきます。
「ファイアウォール!」
地面から派手に噴出した炎、それに巻かれる蝙蝠。狙い通りです。
駄目押しに、ジェイドの譜術が炸裂。バットの姿は跡形もありません。
次は前線の上司やアニスの援護にでも回りましょうか。

少し前に出て、骸骨のような魔物に弾を撃ち込みます。
すると背後から避けてください、とナタリアの鋭い声が飛び。
彼女の射線を外れるため、少しだけ後退します。

「ブラストエッジ!」

炎を込めた、強力な一線。
彼女の矢が目の前の骸骨を、バットを貫き、炎上させます。

すっげえ。
何の気もなしにそれを目で追っていたら。
燃える矢が鏡のような岩壁にぶつかる瞬間を、眺めていたら。

なんとその矢は鏡にぶつかって反射し、私に向かって突っ込んできました。

ちょ、え、えええええ!?
「きゃああぁっ!!」
咄嗟に杖を振るいますが、あくまでも矢は減速しただけで。
おかしいでしょう。どれだけ強力な矢ですか。

そして、矢はまっすぐアッシュに向かいます。
アッシュは視界の端でそれを捕らえたかと思うと、剣を振るい。
からん、という小奇麗な音と共に、それを地に落としました。

prev next

戻る
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -