真似なんですけど


そのまま歩き、辿り着いたのはピオニー陛下の自室。

ジェイド曰く、
仕事関係の書類は女相手じゃないと受け取らない日なのだとか。
…どんな皇帝ですか。国民が憐れに思えてきましたよ。

しかし面倒なのでさっさと片付けようと思っていましたが、
思いのほか抱えた書類が多くて扉が叩けません。
床に降ろすわけにもいかないので、多少困っていたのですが。

足元にいたブウサギが前進するのを、視界の端で捕らえます。

ブウサギは扉にゴンゴンと頭を打ちつけ、ノックに酷似した音を立て。
誰だーという陛下の声にもその鳴き声で応えました。

「おっ、サフィール?じゃあユノもいるのか。入っていいぞー!」

凄ぇ!とひとり戦慄します。
完璧に中に入る術を習得しているブウサギにか、
鳴き声だけで無数のブウサギから個体を特定した陛下にか。
とにかく凄ぇ。レベルが違う!

跳ね上がって扉を開け、先導するように入室するブウサギを見て、
私はこの人たち(?)にいちいちツッコミを入れるのはやめようと決心したのでした。
だって、さぁ。

「ご苦労ご苦労。…あーもうすっかり懐いてんなぁ、薄情な奴めぇ」
「ブヒ」
「やっぱり可愛い女の子のがいいってかあ?このっ!」

目の前で繰り広げられる、ブウサギとおっさん(皇帝)のじゃれ合い。
どうも目に毒というか、できるなら見たくない光景です。

そもそも私を女の子と形容していいんでしょうか。
幾つまで使用できるんでしょうね、その言葉。やはり成人まででしょうか。
私の年齢に関しては黙秘です。
いえ、自分でもわかってないとかその辺はそっとしておいてください。

「へーいかっ。国務持ってきましたよぉ」
「ユノお前、俺の釣り方を心得てきたじゃないか。かわいいぞ」

近くにあるテーブルに山のような書類を置くと、
ブウサギと戯れていた陛下が嫌そうな顔で舌を出します。

今のジェイドの真似なんですけどね。

なんというか、陛下の前ではジェイドも別人のようです。
巫山戯方の方向性が違うというか。
どの道恐ろしいことに変わりはないんですけど。

「おや、私の悪口ですか?」
「ぎゃあああっ!!」

弾かれたように、というか文字通り跳ね退くと、
背後にある扉に立っているジェイドの姿がありました。
いつ入ってきたか以前に、扉は一体いつ開いたんでしょうか。
そもそもジェイドの悪口は声に出していないはずなのに…!

「おい勝手に入るなよ。ノックはどうした、ノックは」
「しましたよ」
「嘘つけ!」

陛下の糾弾を笑顔で受け流し、つかつかと奥へ入っていくジェイド。
本能的なものか、陛下と戯れていたブウサギが私の元に帰還します。
…というか、他のブウサギも蜘蛛の子を散らすように散開しています。
本当に人間でしょうか、あの男。

ジェイドは抱えていた書類を先程私が置いたものに上乗せし、
とんでもない高さの山を築き上げ。
ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てる陛下を笑顔でやんわりと受け流します。

あーっと。

「では私はこれで」
「待てユノ!おまえ自分だけ逃げる気か!?」
「失礼しまーす」

背後の悲鳴を無視し、退室。

足元にいるブウサギを見下ろして、ふと溜息をつきます。
ガイ、早く来ないかなあ。
多分ガイが来たら私の負担も減ると思うんですけどね…

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