尋常じゃなく


足音と一緒に着いて回る、ぶひぶひという泣き声。
もう慣れました。不本意ながら。

グランコクマへ訪れ、三日が経過しました。

宿を用意する、というジェイドの言葉に嘘はなく、
街中にある某宿に部屋を用意してもらいました。
…年間契約なのがそこはかとなく不快といいますか、不審なのですが。

しかしただ飯を食わせてくれるほど殊勝な男ではありません。

一ヶ月に五十日間、って休みほとんどねーじゃねーか!って日程で
宮廷へ出向き、雑用やらを引き受けています。
なんというか、使用人っぽいです。服装こそマルクト兵のものですが。
どうなんでしょう、この状況。マルクト人からしたら…

「あら、リーランドさん」

廊下で鉢合わせした使用人の少女が、私を見て破顔します。

「今日もありがとうございます。いい天気ですねぇ」
「はい。水の多い街ですから、日光が美しいです」
「そうですかぁ」

わたしも大好きなんです、と言いながら窓の外を見下ろす彼女。
ほどなくして姿勢を正した彼女は、書類を抱える私の足元へと
視線を移してにこにこと笑います。

「すっかり懐いてますね、サフィール」
「……………ええ」

そうなんですよねー。

あの日、玉座の間に乱入して私に絡んできたブウサギ。
その後もなんか懐かれたらしくて、宮廷にくる度後ろをついてくるんですよ。

いえ、別にブウサギは嫌いではないのですが。
名前が不快です。ものすごく不快です。尋常じゃなく不快です。
よりにもよってサフィールかよ…

「サフィールったら、リーランドさんが来るのを毎朝楽しみにしてるんですよ」
「…ええ、わかりました。わかりましたからやめてください…」

宮廷内の牢にて騒いでいる奴の顔がちらつくんです。
本当にやめてください、おぞましい。

彼女と別れて廊下を歩む間も、"サフィール"は私の後を付いて歩いています。

振り返った時に間抜け面を不思議そうに傾げる姿が、その、なんていうか。
…………やめておきましょう。
続きを言った途端、私はディストを正面から見れなくなりそうですから。

(くっそ不愉快だけど可愛い…!!)

prev next

戻る
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -