一番偉い


私、この人苦手です。

「成程成程。それは大変だったなぁ、ジェイド。
 で?そっちが報告にもあったユノちゃんか?はやく紹介しろよ」
「………」

ジェイド、頑張って!
私から見えるのは背中だけですが、
きっとお茶の間に流せない表情に違いありません。
どうも私たち、苦手な人間のタイプが共通しているようですからね。
恐らく凄まじい苛立ちを抱えているはずです。

目の前にいるマルクト皇帝、ピオニー・ウパラ・マルクト九世に対して。

「私が紹介せずとも、子供じゃありません。自己紹介くらいできるでしょう」

さあユノ、と輝かしい笑顔で振り向くジェイド。
うっわぁ突拍子のない突然すぎる振り!どうしたらいいんですか!

「え、えぇっ、とぉ」

玉座には喜色満面といった風の皇帝。
フランクな人物であるとは聞き及んでいますが、皇帝です。
世界で一番偉い人間ですよ。三人並列してはおりますが。

「お初にお目にかかります。
 神託の盾騎士団第二師団所属、ユノ・リーランド奏長であります」
「固い」
「……は?」

無難な自己紹介と共に頭を垂れた私に、皇帝の一言。
固い?固いっていいました、今?

「折角だしもっと可愛い自己紹介をしてくれ。
 ほら、今なら俺たち以外誰もいないし」
「陛下。無茶振りはやめてください」
「だってつまんないだろーが」

この会話を眼前で見て、確信しました。

以前ネフリーさんが語った、雪の街の子供達の話。
似非優等生の兄、苦労人な妹、馬鹿、そしてもうひとり。
その"もうひとり"は、目の前にいる皇帝だ。

だからなんだって感じもしますけどね。

とりあえず、目の前にいる家主に
先程私の足元にやってきたこれを何とかして頂きたいのです。

「あのー、すいません」

先程から一転、実に面倒くさそうな…いつもの声音で、語りかけます。
ちょうど口論が始まっていた幼馴染二人は揃ってこちらを向き、
続きを待つかのように動作を止めました。

ジェイドは用件を分かっているらしく、薄ら笑いを浮かべていますが。
非常に腹立たしい。
私は半歩そこから移動し、自らの足元を指して。

「これ、なんとかしてください」

と、まとわりつくブウサギを示しました。

何故宮廷内に家畜がいるんですか。
口論のあたりから思ってましたが、マルクト皇帝、馬鹿でしょう。
ネフリーさんの苦労が偲ばれます。
碌な偉人がいないじゃないですか、ケテルブルク。

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