私を信じないで
珍しい人物が和を乱しましたが、
話が進まなくなるほど幼稚な集まりではありません。
ガイがアッシュに嫌味や皮肉を言い、
ナタリアがそれを咎め、アッシュはガイをスルーしつつ話を進める。
とても仲良しとはいえない空気の中、議論は続行されました。
結論。
ヴァンの目論見を把握するため、ベルケンドに向かうことになりました。
その結果が出た後は自然解散となり、
タルタロスを自動操縦に切り替えてからは各々好き勝手に行動しています。
もっとも、ジェイドだけは操縦席に残っていましたが。
私も久々にゆっくり眠れそうですね。船室に戻ると致しましょう。
「ユノ」
船室に戻ります。誰の指図も受けません。
誰の声も聞こえません。聞こえないんです、邪魔しないでください。
「…ひっ!」
び、びっくりさせないでください!なんで前にいるんですか!?
さっきまで後ろから声かけていたじゃないですか…!
進路を塞ぐように立つ、沈んだ表情の旅同行人。
彼は表情同様に沈んだ目で、私を遠慮がちに見下ろしていました。
「ユノ、すまない。…少し、話に付き合ってくれ」
…アニスじゃありませんが、私のお人よしも筋金入りだと思います。
いいですよ、付き合ってやろうじゃありませんか。
興味はありませんけれど。
*
久しぶりに訪れたタルタロス甲板は、以前とは全く違う場所に感じました。
まあ、当然ですよね。
以前来た時って例の襲撃作戦の時ですし。すっげー転がってましたし。
現在は、勿論何も転がっていません。
遥か下方には海原が広がり、潮風が頬を撫ぜています。
ガイに先導されて来たは良いものの、話を出し渋っているようですね。
面倒臭いです。本当に。
「アッシュのことが気に入りませんか?」
仕方ないので、私から話を切り出します。
ガイは少し驚きつつも振り返り、躊躇いがちに目を伏せました。
「気に入らないね」
「何故ですか」
「…何故だと思う?正直、分からないんだ」
質問に質問で返すのは関心しませんね。気に食わないです。
ガイがアッシュを敵視する理由といえば、私が考えられる限りでは
ルークと同一視できないからでいいと思うんですけど。
わざわざ尋ねるからには、別の理由があるんでしょうか。
「あなたの真理が私に分かるわけないでしょう」
若干の嫌悪感を滲ませた言葉に、ガイが苦笑します。
この人、何故私を呼んだのでしょうか。
優しい言葉をかけてもらいたかったのなら、完全なる人選ミスです。
「アッシュが敵なら、私も敵ですよ」
「俺は、君を敵とは考えていないさ。…多分、アッシュもな」
「…どうだか」
いちいち傷ついた顔になるのやめていただきたいですね。
仕方ありません。ちょっとだけ励ましてあげましょう。
「私を信じないで。あなた、私の監視役なんでしょう?」
無意識のうちに破顔して、ガイに指をつきつけます。
彼は面食らった様子で硬直しましたが、すぐに同じように破顔して。
まだ続いてたのか、と。呟きました。
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