悪くないかも


「なんの用だ?ユノ」

公園に佇んでいたアッシュが、振り返りもせずに問いかけます。
何も考えず、雑談に来ましたと真実を告げると、
盛大な舌打ちが返ってきました。…しかし追い払う気はないようです。
良き哉良き哉。では居座りましょう。

「心外かもしれませんが、ちょっと意外です」
「…?」

隣…といっても数メートル離れた場所に立ち。
突拍子もない言葉から始めると、アッシュが眉をひそめました。
…いえ。元々険しい表情しかしないような人間ですけどね、彼は。

「貴方のことですから、アブソーブゲートに乗り込むと思ってました」
「…フン。あの屑がしくじれば、今すぐにでも乗り込むさ」
「ふーん」

それって裏を返せば、今現在もルークの勝利を信じているってことですよね。
結構わかりやすいというか…面白い人物ですね、相変わらず。
というか、私が言ったのはそっちの意味ではなくてですね。

「使命感とか憎悪じゃなくて、ナタリアのために乗り込むかなって思ってました」
「成程。死にたいようだな」
「うわっ!?ちょ、馬鹿!貴方病人でしょう!」

剣を振るわれました。左手で。なんていい加減なんでしょうか。
せめて利き腕で殴ってくださ……あれ。何言ってるんだ、私?

「まあ、色恋の話は置いといてですね」
「一から十まで忘れろ」
「アッシュ。…貴方、何してるんですか?絶対安静でしょう」

こんな寒い場所で、碌な防寒対策もせずに。
傷が開く以前に病気に罹ってもなんら不思議はありません。
別にアッシュが風邪ひいてもどうでもいいんですけどね。

「…お前に言う筋合いはない」
「はあ。そうですか」

実は特に聞きたかったわけでもありませんしね。
イオンくんが寝てしまったので暇で暇で仕方なかっただけですし。
アッシュが気になっていたわけでは断じてないのですよ。

「お前も変わったな」
「は?」
「以前のお前は、暇な時に外をうろついたりしないだろう」

そうでしたかね。そうだったかもしれません。
最近は働くというか、一日行動するのが当たり前になっていて
昔のように惰眠を貪れなくなってるんですよね。困ったことに。

…正確にはここ二年のように、ですけど。
導師守護役の時は馬車馬も真っ青な労働時間で頑張ってましたからね。
もう面倒臭いのでイオンの話題も解禁です。
閑話休題。

「なんだかんだで見てるんですね。貴方」
「…」

露骨に不愉快そうな顔をされました。
そういえばアッシュは教団の中でも比較的親しくしてくれていましたよね。
私自身も悪い印象は持っていません。
もしよければ、また一緒に仕事をするのも悪くないかもしれませんね。
ありえないでしょうけど。

自分が不得手な話題になったのを察したのか、アッシュが首を振り。
そして踵を返して、街の出口へと歩き出しました。

「何処へ行くんです?」
「お前には関係ない」
「はあ。それもそうですね………あ、そうだ」

すたすたと病人らしからぬ足取りで去るアッシュを引き止めました。
振り返ってはくれませんでしたが、十分です。

「"絶対に負けないから、信じて待っていてほしい"」
「……!」
「…伝えましたからね。さようなら」

アッシュは暫く立ちすくみ、言葉をかみ締めているようでしたが、
すぐに歩みを再開し―…雪景色の中へ、消えていきました。
帰って寝るつもりでないことは明らかです。
そして、アブソーブゲートへ乗り込むつもりでないことも、明らかです。
興味ないので追及しませんけれど。

そんなことよりホテルに帰りましょうか。
寒いし。

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