曇天へと、
「なあ、ユノ。わかっただろ?
みんなユノのことが大事で、信頼してるんだよ」
「ルーク。上手く纏めないでください、若干一名違いましたよ」
思いっきり頭蓋骨を握りつぶす勢いだったんですけど。
実直に切り込めば、ルークは冷や汗を流して明後日の方向を向きました。
おかしいですね、雪国で腹だしの人間が汗を流すなんて。
不思議ですねー。
「…ジェイドに似てきてんの、お前もだぞ」
「マジですか」
「マジだ」
深々と溜息をついたルークが、ふいに肩を跳ねさせました。
どうしたことかと目を見張ると、彼はその場に頭を抑えて立ち竦んでしまいました。
…どうやらいつもの頭痛のようです。
黙って見守っていると、収まったのか、ルークが顔を上げました。
「…悪い、ユノ。俺、ちょっと行ってくる」
「アッシュですか?」
「!…なにか知ってるのか?」
三日は起きられなさそうな怪我でしたが、あの男ならきっと立ち歩くでしょう。
決戦を控えた"ルーク"を激励したいのかもしれません。
…違うか。ただ念を押しに来ただけでしょうね。
失敗したら殺すぞー、とか。
とにかく。
「行ってきてください。…私、どこにも行きませんから」
「…ありがとう!」
明朗に微笑んだルークは、公園の方向へ走り去って行きました。
その生き物のごとく跳ねる彼の後ろ髪は、初対面の時とは似ても似つきません。
…変わるものですね、人間。びっくりです。
ふと漏れた感嘆の息は、強く吹いた吹雪に掻き消され。
真っ白な曇天へと、融けて消えました。
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