いただければ


場所は変わり、中央ホール。
巡礼者に教団関係者が入り乱れ、随分な人口密度です。

ラルゴの攻撃で軽く脳震盪を起こしましたが、元気です。
元気100倍です。りんりんです。りんりんは勇気でしたっけ?

ふらふらと歩いていれば、最近よく目にするようになった姿が見えました。
長髪長身のマルクト軍人を連れています。
…あ、気付かれちゃいましたね。

「ユノ・リーランド!丁度いい、彼を港までお送りしなさい」

大詠師ピッグ…あら、失礼。
大詠師モースが、軍人を指してそう言います。
いやいや、一応私はディストの部下であるのだし、
こんな権力で肥え太った豚の指図を受ける必要はないのでは?
ディストの指図も勿論受けませんけどね。

「了解しました」

この豚、肥え太るほど権力持ってるんです。勿論従いますよ。

*

「手間をかけますね」

ダアトの入り口付近まで歩いた頃。
ずっと黙って後ろに着いていた軍人がそう口火を切りました。
「いいえ。職務ですから」
冷静に考えれば、ダアト港って滅茶苦茶遠くないですか?
送れってお前。あの豚。

「ここまでで結構です。折角なので、ダアトを観光しようかと」

ずり落ちてもいない眼鏡を押し上げ、微笑む軍人。
どうも嘘臭いですね。
何かダアトでやらかすつもりでしょうか。

「そうですか。どうぞお楽しみくださいませ」

興味ありませんし、早く帰りたいのでつっこみませんけど。
しかし彼ははい、と返事をしたものの、そこから一歩も動いてくれません。
立場上、地位上、彼より先に立ち去ることはできないのです。
近くの露店でも観に行けよ。はやく。

「あなた、お名前は?」
「私ですか?私は神託の盾騎士団第二師団所属ユノ・リーランド奏長です」

噛まずに言えました。
偉そうにしてる私ですが、上記の通りあんまり偉い階級ではないのですよ。
第六師団解体前はもう少し高かったんですけれど、
上司の左遷理由とかから察していただければ幸いです。

軍人はリーランドですか、と小さく呟き。
眼鏡を光らせました。
「私はジェイド・カーティス。実は人を捜しているんです」
「はあ」

若干聞いたことある名前な気もしますが、スルーします。
ジェイドの目は光る眼鏡のせいで見えませんが、
その口元にははっきりと笑みが浮かんでいました。
恐ろしく人当たりの良い、恐ろしい笑みが浮かんでいました。

「アニス・タトリン。ご存知ですか?」

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