でもそろそろ、
「よかったぁ。ホテルの人に聞いたらチェックアウトした後だっていうから、
ティアもガイも落ち込んじゃって大変だったんだぜ。
ジェイドやアニスなんか次見たらしばくだの泣かすだの言っててさぁ」
無邪気につらつらと恐ろしいことを述べるルーク。
しばくって何。泣かすって何!
出発しなくて本当によかった!やっぱりあの二人は敵に回すと怖すぎます!
「……で?どうだったんですか、雪山は」
「あー…うん。その、リグレットやアリエッタがいてさ」
「はい」
「戦ったんだ。それで、雪崩に巻き込まれて…多分、だめだったと思う」
「…そうですか」
随分とあっけない末路ですね。
…いえ、雪崩ごときじゃ死なないだろうなってなんとなく思ってますけど。
死んだんですかね、本当に。
興味ありませんけど。
生きてたらきっとまた会うし、死んだんなら、忘れられるだけです。
忘れるでしょうね、私。きっと。
「俺たち、明日アブソーブゲートに行く」
ルークは立ち止まって、足元に視線を移しました。
俯いてこそいますが、その声音に迷いはありません。覚悟を決めているのでしょう。
「行って、ヴァン師匠を止めるよ」
「……」
静かに宣言したルークの横顔を見詰めます。
微かに震えているのは寒さのせいだけではなさそうですね。
…まあ、勝てる保障なんて、どこにもありませんし。
戦場に赴く前は恐怖が伴うものだそうです。経験はありませんけれど。
「…それで?私にそれを言って、どうなるんです?」
「えっ?い、いや…どうなるって言われると、困るんだけど」
「私だって困りますよ」
アブソーブゲートに行き、戦う貴方達へ祈りを捧げろとでも?
冗談じゃありません。私はグランコクマへ行くんです。
…あ、でも。
ルーク達がヴァンを潰してくれたら、ダアトに帰れたり…しますかね。
やっぱり無理でしょうか。豚もいますし。
「俺さ、ユノと二人で話してみたかったんだ」
「はあ」
「ユノは最初敵だったけど、ずっと俺たちのこと助けてくれてただろ」
「ストップ!」
「えっ」
何言ってるんですか、この人!
「私がいつ貴方達を助けたっていうんですか!?」
「えっ?そうだな、最近で言えばシェリダンとか…?」
「あれはっ!」
ヴァンとリグレットの邪魔をしてやりたかっただけなんです。
断じて作戦を援護しようとか街の人を守ろうとかじゃなかったんです。
そういう恥ずかしい勘違いはやめてほしいです!
「いや、でもユノのおかげでイエモンさんたちに大事なかったし…
すごく感謝してたよ。"口は悪いけどいい子だね"って」
「っ…!」
か、痒い!すっごく痒い!
「…そうだ。口悪いと言えばさ、その敬語ってわざとなのか?」
まさかの切り口。
そういえば最近は殆ど意識してなかったというか…吹っ飛ぶことも多かったですね。
元々逆境に弱い性質なんです。見なかったことにしてください。
「俺、ユノのこと何も知らないんだよな。…導師守護役だったんだっけ?」
「…ええ」
なんでしょう。この空気。
私の過去話とかしなきゃいけない雰囲気になってきました。
恨みがましくルークを見詰めると、気にしいな彼は顔色を変えて
嫌ならいいんだけど、と慌ててフォローに入ります。
ふむ。でもそろそろ、頃合かもしれませんね。
「いいですよ。私の出生からでよろしいですか?」
「え、そんな前からかよ」
「私が私たる所以は出生からありますよ。…多分」
「多分かよっ!」
近くにあったベンチの雪を払い、無造作に腰かけます。
手招きすると、ルークも私に倣って隣に座りました。
「じゃあ、ユノ・リーランドの過去話。ご清聴ください」
言っておきますが、わざわざ隠すほど悲惨でも面白くもありませんからね。
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