ここ数日で


血まみれのアッシュを引きずって宿に入ると、
案の定というか当たり前というか、そこの主人は悲鳴をあげ。
必死の形相で医者を呼びに走ってくれました―…ええ、以前診て頂いた彼です。

まさに瀕死といいますか、浅い呼吸を繰り返すアッシュを見て、
彼は呟きました。「これは貴女がやったんですか?」と。
失敬ですね。私が上司をここまでボコボコにできるわけないでしょう。

「一度はふさがった傷のようですが、完全に開いてしまっています。
 …あの、ユノさん。貴女、彼をここまで引きずってきたそうですね」
「ごめんなさい」

申し訳ありません。私のせいでした。

「…おい」

まるで保護者のようにアッシュの状態を聞いていた私と医者は、
ようやっと目を覚ましたらしい病人の声に話を中断します。
全身包帯だらけの彼は、真っ白な顔色で私たちを睨みつけて。
…病人とは思えない眼力ですね。いつにも増して不機嫌ですし。

「これは元々開いていた傷だ…いいからお前は出て行け」
「?」
「邪魔だって言ってんだよ」

どうやら心底私が邪魔らしく、抑えた怒号にも覇気があります。
横目で医者を見ると、黙って頷かれました。
ええ、別に構いません。どうやら死にそうにないですからね。
出て行きましょう、大人しく。

外に出ると、風はほとんどありませんでした。
ただ深々と降り積もっていく雪だけの景色は、どうも味気ないものがあります。
…初め来た時の感動はなんだったんだって話ですね。
"心境の変化"?ってやつが、ここ数日で起こったのかもしれません。
どうでもいいですけど。

さて。
ルーク達が出発してから二日が経ちますし、
あと一日もすれば帰ってきてしまうでしょう。
アッシュがケテルブルクに来た意味はよくわからないのですが、
まあ恐らくルーク…いえ、ナタリアでしょうか。その辺に会いに来たのでしょう。
私には関係ない話です。

では、天候にも恵まれたことですし、そろそろ出発して…

「あっ、ユノ!」

突然の声に、身体が跳ね上がりました。
恐る恐る振り返ると、朱。
実に寒そうな、見慣れた格好のルークが、そこに立っておりました。

か、帰ってくるの、早すぎじゃないですか…!?

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