どうにでもなれ


結局ディストは目を覚まさず、死ぬこともなく。
数日が経過しました。

暇つぶしには主にカジノを利用しましたが、ここって換金できないんですね。
残念です。

しかし落ち込んでいた頃、変化がありました。
咄嗟に隠れたので恐らく向こうは気付いていないことと思いますが、
リグレット、ラルゴ、アリエッタと残りの六神将がケテルブルクに訪れたのです。
どうやら雪山のほうに向かったようですが、なんだったんでしょう。
ともかく彼らが戻ってくる前に、迅速にこの街を離れたほうがよさそうです。
正直音素は完全に戻っていないのですが、致し方ありません。
面倒事は御免ですからね。

「あら、ユノさん。もう行ってしまうの?でも…」
「大丈夫です、治りましたたぶん」

荷物をまとめ、去る前にと立ち寄った知事邸。
ネフリーさんは名残惜しそうに呟くと、思い出したように続けました。

「さっき兄さんやルークさん達が来たわよ。サフィールに用があったみたい」

…面白いものが見れそうな予感がします。

*

「あ、ユノ!」
ホテルに戻ると、ディストの部屋の前で一同の姿を見つけました。
ルーク、ティア、アニス…あれ。ジェイドがいませんね。

「大佐なら部屋の中だよ。ディストを叩き起こすって」
「叩き起こす?そんな無茶な」

無駄でしょう、と続けようとした瞬間。
劈く悲鳴が部屋から出で、廊下を突き抜け、建物内で響き渡ります。
……うっわぁ。

「え、何ですかこれ?もしかしてこれずっと…」
「ずっと」「もう10分になるわ」「目は覚めているでしょうに…」

口々にそう言いながらも、誰もその場を動こうとしません。
やっぱり可愛いですよね、我が身。
その後数分、ディストの絶叫を聞き続けた後、部屋の扉が開き。
晴れやかな表情のジェイドが、顔を出しました。

「地震の影響で雪崩が頻出しているそうです。
 それと奥のほうに強い魔物が住み着いてしまったようですね」
「あ、ああ…それはわかったけど、今の悲鳴…」
「何の話です?…おや、ユノ。お久しぶりですねぇ」

話の転換先に私を利用しないでください!
曖昧に返事を返し、各々の顔を見比べます。…ティアの顔色は、未だ優れないようです。

「貴方達、ロニール雪山に行くんですか?」
「ええ。そこのパッセージリングを操作しに」

パッセージリング?あの雪山にあるんですか、知りませんでした。
今は六神将が戻っていないので、行かないほうがいいと思いますが…
…まあ、多分大丈夫でしょう。雪山、広いですし。

「じゃあ、頑張ってください。私はグランコクマへ行きますから」
「グランコクマ?でも今、船は…」
「大丈夫ですよ、そんなに距離ないですし、適当に」

飛んで、と。言い終わる前に、脇腹に鈍い衝撃が走りました。
それに伴う痛みに蹲ると、体制を正すジェイドと視線が合います…
…え、何?蹴ってきたんですか、私を?

「いッッ…だ…っ!!?」
「いけませんねぇ。怪我人は大人しくしているべきですよ」

その場に蹲る私を見下ろす、同情と呆れの篭った瞳。
なんという屈辱的な状況ですか。

「な、なんで…蹴…」
「ネフリーさんから聞いたのよ。…ユノ、お願い。安静にしていて」
「や、でも…暴力…」
「アニスちゃんたち頑張ってくるから。待っててね!」
「出迎え、期待してるからな」

なんでしょう、ジェイドの奴機嫌悪いですね。
ディストのせいですか?全てにおいてディストのせいですか?
否定しようとなんとか顔を上げると、持ち上げられた靴底が目に入りました。
あああもう!どうにでもなれ!

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