するように
ディストが目を覚ます気配はありません。
暖炉の前に転がされたディストを尻目に、
茶をしばく図は随分目に痛いものがあるでしょうが、それはどうでもいいです。
紅茶美味しいです。
「小さい頃は、サフィールと私と兄さんと…もう一人で、ずっと遊んでたわ」
「…ジェイドが、…遊んでた…ッ!?」
「え、そこからなの?」
話を切り出された直後に慄いた私。
ネフリーさんのツッコミは冷静ですが的確ですね。
しかしいちいち反応していては続かないので、黙って聞くことにしましょう。
「兄さんはいつもサフィールをいじめてばかりいてね」
ですよね。
「私が兄さんを非難しても、サフィールはいつだって兄さんを庇ってた」
その時からジェイド信者だったんですか、ディスト。
その後も淡々と続いた彼女の幼少期は、
温かい思い出と同じくらいの血と涙(無論ディストの)に塗れていました。
時折登場する"もう一人"は、名前こそ出さないものの、
ジェイドやディストと同列…
もしくはそれ以上に、彼女にとって大切な人物のようです。
ええ、当然のように興味はないのですが。
「あ」
指先が滑り、ティースプーンが絨毯に転がります。
ネフリーさんは咄嗟に使用人を呼ぼうとしましたが、私の足元です。
屈んで拾い上げようとすると、酩酊するように意識が歪みます。
思わず体制を崩して、床に肩をつけてしまいました。
―…あ、あれ?
「ユノさん!大丈夫!?」
「え、ええ…大丈夫です。すみません…」
身を乗り出したネフリーさんを尻目に立ち上がり、
再び椅子に座ります。視界は元に戻りました。…貧血か何かでしょうか。
ご心配おかけしました、と正面のネフリーさんに愛想笑いを返します。
が、彼女の視線は鋭く、訝しむようなもので。
深刻な声音で私の名を呼ぶと、その場に立つように言いました。
「…何故です?」
「いいから。立って頂戴」
有無を言わせぬ威圧感。なるほど、あの男の妹というのも頷けます。
勿論断れるはずもなく、意味のわからないままその場に起立しました。
険しい顔のネフリーさんは私の手首を取り、瞳孔を覗き込み。
最後に首筋で脈をとった後、頷きました。
「ユノさん、あなた血中音素が減ってるかもしれないわ」
私があげた疑問の声は、
眠るディストのジェイドジェイドという寝言に掻き消されてしまいました。
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