感動です


船の期待は最初からしていなかったので、
なんと長杖の飛行のみでの移動となりました。

気候の変化とか、そういうので結構疲れるのは譜術でカバーです。
勿論休憩も何度か挟みつつ、辿り着いたのは。

「…………!」

思わず見惚れてしまうほどの、白。
銀世界ケテルブルク。目的通り、マルクト領です。

や、あの…来るの、正真正銘初めてです。
雪なんか氷の塊だろってずっと思ってて、その、馬鹿にしていましたが。
すっげー綺麗です。感動しました。

生憎風が強いもので、刺すような冷気が痛くはありますが。
それでも感動です。雪景色美しい!
観光客も多いこの街、歩くだけで結構楽しめるものです。
カジノやホテルといった娯楽も多いので、暫く滞在するのも悪くありません。

ていうか、します。滞在。
来て数十分にも満ちませんが、異常なくらいに気に入りました。
これがカマクラですか!随分強固な作りですね!

「ぐぇっ」

……ん?
蛙を潰すような、奇怪な声が聞こえたような気がします。
恐る恐る足元を見ると、どうやら私は人間の背に乗っているようでした。
どういう状況ですか。まさかこの人、積もった雪に埋まっていた…とか?
足をどけるよりも先に様々な思考が脳内を巡ります。
街中で行き倒れるなんて、この人よっぽど馬鹿なんでしょうね。
…じゃ、ないです!やばい!早くどかないと、死―…

「だ、大丈夫です………か………」

慌てて発掘した、その既知の人物は。
恐らく私が知る上で、屈指の馬鹿でありました。

*

「サフィール!!」

とりあえず知事に突き出そうと引きずって移動し。
然程待たずに面会してくれたネフリーさんは、聡明そうな顔を驚きに染め。
私に引きずられて雑巾のようになったディストを見て、悲鳴を上げました。
…そういえばサフィール、でしたっけ。本名。

「どうしたのサフィール!?どうしてこんな姿に…」
「公園の雪に埋まってました」
「雪に!?」

使用人に毛布やら温かい飲み物やらを持ち寄るよう指示し、
ネフリーさんはディストの蒼白な頬を手のひらで撫でています。
当のディストは紫色の唇を小刻みに震わせているので、生きてはいるようですね。
発見した時から意識は戻っていないので、危篤状態かもしれませんけれど。

「まるで昔みたいだわ。こんなに震えて…」
「昔?」

気に止まった部分を反芻すると、ネフリーさんははっと顔を上げ。
つまらないこと言っちゃったわね、忘れてください、どうもありがとう、と。
いえいえ。特に興味はないですけど、ここまで来たら気になるじゃないですか。

「私、神託の盾騎士団に所属していて。その男の部下なんです」

辞表を出し損ねた逃亡兵ですけれど。
簡単な自己紹介をすると、彼女は純粋に驚いたようでした。
「凄い偶然ね。なんだか嬉しいわ」
大人びた顔を少女のように綻ばせ、運ばれた茶を三人分のカップに注ぎます。
ディストは暖炉の前にて放置。なんだかんだで扱いが荒いですね。

「私はネフリー・オズボーン。彼とは幼馴染なの」

へえ、と一度聞き流し。首を捻りました。
ディストと幼馴染。では、ジェイド・カーティスとは如何様な関係ですか?
そう尋ねると、彼女はおかしそうに微笑んで。

「彼は私の兄よ」

…………冗談、ですよね?

prev next

戻る
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -