一発くらい


…言葉が、出ませんでした。

ええ、初めて語り部を奪われたとかそういう意味ではなくて。
こいつ、何言ってるんだ?と。
純粋に驚き、純粋に慄き。純粋に、疑問に思いました。

「…私が、他者に依存している?」
「ええ」

…そんな簡単に、頷かないでくださいよ。
依存とか。私と最も無縁である言葉ではないのですか。
意味わかんない。
ええ、でも、私は大人なので。頭ごなしに否定して叫ぶことはしません。
不愉快な言葉を向けられても、取り乱したりしません。
クールにいきましょう。クールにね。

「ふざけたこと言ってんなコラァ!」
「おっと」

避けられました。
フェイント付きで、本気の攻撃だったのですが。避けられました。
避けんなバーカ!ふざけんなバーカ!一発くらい殴らせろ!

「長々語って何かと思えば!くだらないこと言わないでくださいっ」
「おや、そうですか?動揺しているように見受けられましたが」
「うるさい!黙ってください!」

あれ、"黙りなさい"が正しいんでしたっけ?
この敬語も苦しくなってきましたね。そろそろ疲れてきました。
そもそも!

「出会って一年にもならない貴方に語られるほど
 ユノ・リーランドは簡単な人間じゃありません。自惚れないでください」
「…」
「大体私がどんな気分でそこにいようと貴方に関係ないでしょう。
 そんな面倒くさい理屈を捏ね回す時間が勿体無いとは思わないのですか」

ジェイドは何も応えません。
ただ、じっと私を…いえ、虚空を見つめて思案しているだけです。
何が言いたかったんでしょう、この人。意味がわかりません。

その時です。
ミュウを抱えたままのルークが、こちらへ譜陣の完成を告げ―…
その途端、その場に蹲ってしまったのは。

「ルーク!大丈夫…!?」
一番近くにいたティアが彼に駆け寄ると、周囲に降るような声が響きました。
ユリアの血縁か、身体を借りるぞ、と。
一同が不思議に思うよりも前に、"身体を借りる"という行動は成されました。

ティアの身体は、淡く発光し。
そして別人のような表情で、別人のような口調で。
…というか、別人なのでしょうが。ともかく、"彼"は口を開きました。


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