だってこの人、


「ところでさぁ、ユノ。なんで助けに来てくれたの?」

タルタロスが地核に沈む間に、アニスが尋ねてきました。
なんで、と言われましても。
困りましたね。最近の私はどうも行動の動機が安定しないものですから。

「……多分、ノリ…でしょうか?」
「訊かないでよ、私に」

ていうかユノの口からノリとか聞きたくないんだけど、とアニス。
心外ですね。私ほどノリと勢いで生きている人間も相当稀有だというのに。
計算とか策略とか、疲れるじゃないですか。

*

「ここにあった譜陣は、ボクが消してやったよ」

装置を発動させ、先程の譜陣を使ってさあ脱出。そんな時でした。
幸い私が消さずに済んだ例の陣が、跡形も無く消されています。
そしてその場所に佇む、それなりに懐かしい姿。

なるほど。ヴァンは一応、間に合わせていたのですね。
「シンク…!侵入者はお前だったのか!」
ガイの声に、シンクは嘲るように鼻を鳴らしました。相変わらず、嫌な癖です。

「逃がさないよ。お前らはここで泥と沈むんだからな!」

叫びと同時の、疾走。
ほぼ直線を描いてシンクが狙ったのは、イオンくんでした。
頭いいくせに単純ですよね、彼。

「イオン様っ!下がっててくださいっ」

巨大化したトクナガに乗るアニスが、その道を阻みます。
一分一秒が惜しい。更にここは地核、退路を気にする必要はありません。
総力戦です。七対一、シンクに勝ち目はないでしょう。
しかしシンクに勝つ必要はない。彼の役目は言葉通り、時間稼ぎです。

ヴァンが必要とする駒が分かりませんね。
六神将すら、使い捨てですか。

「フレアショット!」「ピアシスライン!」

私とナタリアの攻撃が、混戦の中へと穿たれます。
前衛は三人、中衛二人、後衛二人。バランスとしては最高でしょう。
だけどシンクは、その陣営を崩すことを何より得意としていました。

「昂龍礫破!、っ空破爆炎弾!!」

床を抉るアッパーに続き、全身を炎に包んだ突進攻撃。
トクナガの巨体とルークの身体が、いとも簡単に宙へ浮きます。
今や前衛はガイ一人、素早さを矛とするシンクには対応できるはずもなく。
敵の狙いは、中衛の私たちへ移ります。
ナタリアと私。シンクがどちらを先に狙うかは、分かりきっています。

「本っ当に私怨で生きてますよね、あんたはっ!」

矢継ぎ早に繰り出される打撃を、長杖でいなしますが。
勝てるわけありませんよね。相手が悪すぎます。
蹴りが脇腹に直撃し、真横に吹っ飛びました。頭と身体が分離するかと
錯覚するほどの勢いです、…タルタロスの外に出なければ良いんですけど。

「ユノ!」
「っ…!!痛ぁっ!?」

甲板の柵よりも柔らかい、人間の身体が私を受け止めます。
勿論一緒に吹っ飛びましたが、柵を乗り越えるような事態にはなりませんでした。
危ない危ない。つーか痛い。内臓と骨が痛い!
冗談抜きに吐血すると、私の下からうめき声が聞こえました。
…あ、そうだ。一緒に吹っ飛んだんだから、当然下敷きになってますよね。
誰でしょう。ルークでしょうか?

「…ああ、ユノ。怪我はないかい?」
「………」

絶句しました。
どういう状況ですか、これ。なんでこの人笑ってるんですか?
弾かれたように立ち上がり、未だ座り込んだままのガイを見下ろして。
らしくもなく、言葉に詰まります。
「……あ、…あの」
ありがとう?ごめんなさい?違いますよね、だってこの人、女が―…

「ぇ、あ、えっと―…
「ミスティック・ケージ!!」

どかーん。あるいは、ちゅどーん。
そんな効果音と共に、私の声は地核の底へと消えて失せたのでした。

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