手遅れ


三分、という約束は守ったので、周囲の雑魚には目もくれず。
私は来た時と同じように長杖に飛び乗って、港へ向かいました。

ディストは実に良い仕事をしたらしく、速度は以前より上がっています。
荒野を飛行する以上、砂が目に刺さるので然程スピードを出してはいませんが、
恐らくものの数分で港に到着することができました。

できましたが。
もう、手遅れでした。色々な意味で。

「……ユノか」

海を睨んだまま、ヴァンが唸るように呟きます。
その傍らには、以前取り逃がしたスピノザと。
恐らく未だ街にいるだろう老人たちの仲間と思しき、三つの体躯。
一人はともかく、残りの二人はもう動かないでしょうね。
まずひとつの意味で、手遅れでした。

「ええ、私です。あまり驚かないんですね」
「そうだな。お前はいつか裏切ると、ずっと分かっていた」

ヴァンは緩慢な動作で私と向き合い、憐むように見つめてきます。

「あの時示した、お前の答え。今一度、示して貰おう」

あの時、とはバチカルでのことでしょう。
覚えています。忘れもしない、あの不愉快極まりない会話。
それをもう一度、ですか?冗談じゃありません。
刃を突きつけられた状況で、頭痛を呼び起こせというのですか。
バカでしょう。こいつ。

「嫌です」

実直にきっぱり断っても、その表情は少しも変わりませんでした。
そういうところが嫌い。全てが嫌い。全てが憎い。

「もう、いないんですよ。会えないんです。何もできない。
 私は墓の場所すら知らない。もう手遅れなんです、だからせめて」

せめて、最期に押し付けられた呪いだけは守らせてください。
彼じゃない彼に。世界じゃない世界に、惑わされないように。

とりあえず、世界のために動くあの人たちの手助けくらいは。

ヴァンは小さく溜息をつくと、首を振って。
心の底から哀れむように、諦めたように、私を見て。
そしてスピノザを伴って、港の奥へと姿を消しました。

*

確かタルタロスで出港したんですよね、ルーク達。
駄目元で追いかけてみましょう。
手伝うと公言してしまった以上、黙って帰るわけにはいきませんし。

最も。
帰る場所なんて、もうどこにもないんですけどね。

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