本当に不思議で、


「ごめんなさい」

アリエッタを神託の盾へ引き渡す時の、彼女の言葉です。
完全に意気消沈したアリエッタは、こぼれる涙を隠そうともせずに、
私に謝罪の言葉を並べました。何度も、何度も。繰り返して。

「ねえユノ、…イオン様、大丈夫かな。怪我、してないかな…」
「大丈夫だと思いますよ」

多分。

あの時、アリエッタ同様ライガも理性を失っていたようです。
アリエッタの大好きな"イオン様"をも攻撃対象とみなしてしまうほど、完全に。

そのライガがイオンくんに攻撃を加える直後、その間にパメラが飛び込み。
彼女は火傷を負い、医療室に運び込まれてしまいました。
その際随分とガイが取り乱していたようですが…まあ、それはさておき。
見たところイオンくんに外傷はなさそうでした。

「ごめんなさい。…きっと、アリエッタのこと嫌いになったよね」
「…誰がですか?」

純粋に疑問に思って尋ねると、彼女はか細い声で。
ユノ、と。私の名前を呟きました。
…私、ですか。私がアリエッタを嫌いになる。そうですね、恐らく。

「嫌いになってませんよ」

アリエッタが顔を上げ、信じられないといった風に目を見開きます。
しかし本当か否か聞き返すことはせず、たった一言。
ありがとう、と呟いて。
扉の奥へと連行され、消えていきました。

それを見送る私の顔は、一体どういったものだったのでしょう。

わかりません。鏡がありませんでしたから。

しかし少なくとも、以前とは全く違った目で、その背を見ていたことと思います。

本当に不思議で、理解しがたいのですが―…
私が彼女にこの数年間抱いていた信頼や好意が、失せていたから。

*

「あら」

トリトハイム詠師の訝しげな視線から逃れ、礼拝堂に戻ります。
すると、そこにはなんとルーク達ご一行が揃っていました。
まだダアトにいたんですか。早く出ないとシンクあたりが帰ってきちゃいますよ。

「ユノ、アリエッタはどうなりましたか」

ジェイドが淡々と尋ねてきたので、詠師に引き渡した宗を伝えます。
それこそシンクあたりが帰ってきたら、すぐに開放されるだろうとも。
しかし一時的にでも身動きが取れないだけで充分らしく、
それほど不服そうな反応はされませんでした。されても困りますが。

さて。
そろそろ本題に入りましょう。
彼らがここに留まっているのは、十中八九目の前にいる彼の問題でしょう。

「体調が優れないのなら、部屋を貸しましょうか」

薄っぺらい私の問いに、顔を青くした彼は気丈にも微笑んで。
大丈夫だ、もう全部思い出したから。
力なくそう言い放っては、弱りきった瞳を、そっと伏せました。

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