一体どこに


だから嫌なんですよ、この人!

ダアトの商店街には、あまりに不釣合いな二頭のライガ。
先導するアリエッタと同様、敵意に満ちた瞳でこちらを見据えています。
ママの仇。アリエッタが涙混じりに呻きました。

「ちょっと根暗ッタ、こんなところで暴れたら…っ!」

狼狽するアニスが、自らの母を庇うようにアリエッタを制します。
しかし当のアニス母、パメラはまさにあらあらまあまあ、みたいな反応で。
自らが犯した愚行に全く気付いていないようです。
なんて腹立たしい。一回ぶっ飛ばしたいですね。

「ユノ」

ぬいぐるみに顔を埋めたアリエッタの、懇願するような声。
もう弾を出すこともできない長杖を手に持った私は、彼女を見つめます。

「お願い、邪魔しないで。
 アリエッタはどうしても…どうしても、許せないの…!」

へえ、そうですか。
それは大変ですね、同情します。憐れみます。
憎いのなら恨めばいい。殺したいのなら、いくらでも狙えばいい。
だけどそれは、今ここですべきことじゃないでしょう。

「しますよ。邪魔」

自分で思っていた以上に、冷酷な声が出ました。
冷たくて、突き放すような声にアリエッタが傷つくのに、気付きましたが。
だけど私は、口を噤みはしませんでした。

「こんな場所で死傷者を出したくないですから。分かりますよね?」
「……わかんないよ」

鼻をすすり、しゃくりあげる音が聞こえます。
しかし彼女は俯いて泣くだけではありませんでした。
意を決したように顔を上げ、アニスと私と、その周囲を見て。

「アニスも、…ユノも、大嫌い!死んじゃえっ!!」

アリエッタの悲鳴を皮切りに、ライガの巨体がこちらに突進してきます。
そのうち一頭の鋭い爪をジェイドが受け止め、ティアが投擲で威嚇します。
一般人のことを考えると、この場所で術は使えない。
後手に回るのは必然のことです。

…いえ、そんなことはどうでもいいんです。
「…大嫌い?」
私はといえば、アリエッタの言葉を無意識的に反芻していました。
嫌い。アリエッタが、この私を?
…へえ。

「面白いじゃないですか」

残念です。
彼女は私が好きだと思えた、数少ない人間であったのに。
ええ、本当に…残念です。

地を蹴り、アリエッタへ向けて突撃します。
そもそも私の武器は長杖、銃はおまけのようなもの。このまま撲殺しましょう。
人間なんて、この世に存在する殆どのもので殺害できるんですから。

杖を低く構え、振り上げと同時に側頭部を潰そうと目論んだ時。
突然顔色を変えたアリエッタが、目を剥いて、私からその目線を外し。
イオン様、と叫びました。

……イオン様?
イオン様が、一体どこにいるっていうんですか?

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