何より望んで


結論から言えば、私は彼らに同行しないことにしました。

そもそも私はダアトでディストを脅…失礼しました。
"お願いして"、長杖を直して貰う予定だったのです。

彼らに同行しても戦力になりませんし、同行する理由がありません。

しかしここまで来た義理です、ダアトから見送る程度はしましょうという事で、
現在はホールにてルーク達、そしてイオンくんを待っています。

「………」

ローレライ教団本部、玄関ホール。
大聖堂への道、図書室への道、神託の盾騎士団への道。
その分岐点であるこの場所は、流石に人通りも商店街と負けず劣らずです。

変わっていない、なにもかも。

人々の喧騒が、砂に埋まるような不愉快な雑音にしか聞こえません。
待つ時間というのは、こんなにも長かったでしょうか。

こんな誰にも縛られない、ダアトでの時間を、私は何より望んでいたはずなのに。

「ユノちゃん」

真横からの声に、はっと顔を上げます。
そこには心配そうなイオンくんと、ルーク達の姿がありました。

「…早かったですね。皆さん」

早かった、など思ってもいないことですが。
壁から背を離し、彼らに歩み寄ります。次の目的地はタタル渓谷とのことでした。
へえそうですか、と気のない返事をしつつ、教団を後にし。
その敷居を潜った時、ルークがその場に膝をつきました。

「…ッい、…てえっ……!!」
「ルーク!大丈夫!?」

ティアが彼の体を支えますが、ルークの頭痛はすぐに去ったようです。
アッシュからの連絡だった、と腰を上げて。
苦々しい顔で、その報告を続けます。

「スピノザが俺達の計画をヴァン師匠に伝えたらしい。
 ヘンケンさん達は、シェリダンへ逃がしたって」
「……しくじりました」

ジェイドもまた、苦々しく呟きます。「私の責任だ」と。
…良かった。あの時の四面楚歌、一応冗談で言ってたんですね。
ガイが擁護しましたが、あまり耳に入っていない様子です。

「…アッシュは?」
「もう連絡はしないって。また一人で動く気なんだろ」

ルークの言葉に、一同の視線が私に集中しました。
あれ、またこの空気ですか?

「え、じゃあユノ捨てられたの?」
「なんて言い様ですか」

アニスの言葉に、思わず肩を落とします。捨てられたって、お前。

「私はディストに用事があるんです。だからダアトに残ります」
「それはさっき聞きましたわ」
「じ、じゃあ聞かないで下さい…」

他意の欠片もない、純真なナタリアの台詞。
彼女の言葉に怯んだ時、恐らく彼女以上に純真な女性が、
前方から歩み寄ってきました。相変わらず朗らかな、騙しやすそうな笑顔で。

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