無駄ですから


アッシュに第三撃を受けた時には、スピノザの姿は失せていました。

ルークたちのしらけた視線が刺さります。
あれ、なんでしょうこの空気。まるで私が悪いみたいじゃないですか。

わざとらしく目を背けると、まるでゴミでも見るような目の
アッシュと視線がかち合いました。おっと、四面楚歌!

「…仕方ない。スピノザは俺が捕まえておく」

なんですか、その嫌だけど尻拭いぐらいはしてやるみたいな声は。
スピノザを取り逃がした件は全責任が私なんですか?

憮然とした態度のアッシュですが、言葉は協力的なものです。
ルークとナタリアは目を輝かせて一緒に探そう、ありがとうと声を上げます。
あまりに無邪気な彼らに、アッシュの頬が一気に紅潮します。

「勘違いするな!俺はスピノザに聞きたいことがあるから、そのついでだ!
 お前達と…レプリカ野郎と馴れ合うつもりはないっ!」

声を荒げるアッシュですが、説得力は皆無と言っていいでしょう。
傍らのアニスがにやにやとし、しきりにツンデレツンデレと呟いています。
ふむ。では、私も乗りましょうk 痛い!

八つ当たりはやめてくださいよ!
私の頭を殴るのを定着させようとしても無駄ですからね!

「…その口調、ディストっぽいよ。ユノ」
「マジですかっ」
「その口調はアニスっぽいですわよ」
「おや、本当ですか?」
「誰の真似か答えなさい。回答次第では、」
「申し訳ありませんでした」
「ああ、うん。それそれ。ユノっていったら、それだよな」

ものすごく失礼なことを言われました。
何はともあれ、丁寧語にもバリエーションがあるようです。
この面子だと何故かいじられる側に回ってしまうので、
どうも居心地が悪いですね。髪の長かったルークが若干恋しいです。

「ユノ」
「なんですの?」

殴られました。
ちなみに今のはナタリアではなくミュウの真似だったのですが、
この沸点の低い上司には関係ないことのようです。

「お前もレプリカ達とダアトへ行け。スピノザ捜索は俺一人で構わん」
「えっ」
「ディストなら、お前の話術でどうとでも懐柔できるだろう」

とんでもない発言ですが、事実です。
実際どうとでも懐柔してしまっているからこその、この状況かもしれませんが。

私の武器がぶっ壊れたことを知らない面々は首を傾げていますが、
確かに今の私がアッシュに同行したところで大した助力はできないでしょう。
断る理由はありません。

「じゃあ、もう少しばかりお世話になります」

ルーク達に向き合って簡単に挨拶を済ませ、振り向くと。
先程までいたアッシュの姿は、スピノザを遥かに凌駕する速度で失せていました。

なんだかんだで厄介払いされただけの気が、…しなくもないです。

興味ありませんけれど。

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