……てへ。
率直に言えば、緊急事態です。
壊れました、とうとう。
今まで騙し騙し扱っていたこれが、壊れました。
「あ、あぅ…あああぁあぁああ……」
流石に落ち込みます。
がっくりと項垂れ、嘆きたくもなります。
しかし原因は分かりきっているので、それを放置していた私が悪いのです。
どうしましょう、これ。
*
「何してるんだ、屑がっ!」
「…面目ないですー…」
場所は変わらずベルケンド。
ルーク達が研究所に行っている間、街を探索中の私たちです。
なのでとりあえずアッシュに報告したら、目を剥いて叱られました。
ええ、当然ですよね。
こんなの兵士にあるまじき失態ですからね…
「い、いやでも、鈍器としてなら扱えますよ?まだ」
「お前が鈍器を扱って戦えるのか?」
「………」
「………一発殴らせろ」
嫌です。
両手で頭を抱えて身を引き、呆れ返った様子のアッシュから目を逸らします。
皆さんお気づきでしょうか。
壊れたのは、私の長杖。私の武器になります。
アクゼリュス崩壊の際、ヴァンに撃墜された時から様子は変だったのですが、
飛行機能が使えない程度だったので大して気に留めていなかったんです。
そしたら、今度は弾が出なくなりました。
………てへ。
「痛いっ!」
殴られました。剣を扱う固い拳による拳骨です。
何すんだこのトサカ、と頭を上げる前に、第二撃。痛い!
「な、なんでそんなに怒るんですかっ!」
「当然だ!銃の援護ができないお前になんの価値がある」
なんたる暴言。ここまで言われては、私も黙ってはいられません。
「そもそもヴァンに撃墜されたのはアッシュのせいでしょう!
修理費と慰謝料を請求します!あとディストに頭下げてください!」
「ふざけるな!整備を怠ったお前の責任だろうが!」
「違います!」
いえ。違いません。
自分で言っておいてなんですが、責任転嫁も甚だしいと思います。
「じ、術は使えます!価値無くないですっ」
「…論点がずれてるぞ」
しまりました。
私としたことが、なんたる失態。
…いえ、武器を駄目にした時点で失態もなにもないんですけどね。
とにかく、これを直さないとまともに戦えません。
多忙なジェイドやガイに頼むのは気が引けますし、
やっぱりダアトに帰らないと駄目ですかねえ。
その時でした。
ルーク達のいる方向から、見覚えのある老人が駆けていくのを確認したのは。
逃走するような足取り。
私もアッシュも、ちょうど建物から出るところだったルーク一行も、
呆然としてその後ろ姿を見送りました。
………えーと。
「今、スピノザが逃げていきましたよ」
ルーク達に歩み寄ってそう言うと、え、あぁうん、見てた、という返事。
するとジェイドは表情を変えず、あっけらかんと。
「今の話を立ち聞きして、通報する気なのでは?」
と、なんでもないように爆弾発言を投下します。
一気に緊張が張り詰めますが、どうもしまらない空気です。
「アッシュ、追いかければやれますよ」
「…何をだ」
「銃は無理でも術はいけます。老人一人なら、殺れますよ」
「却下だ!」
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