察しください
以前も思ったことですが、キムラスカの土地って最悪ですよね。
砂漠に荒野。さらにこの湿原。
最悪です。最も悪い、と書いて。最悪です。
「帰りたい…」
うなだれたと同時に漏れた言葉に、呆れ返ったというか軽蔑するような
ジェイドの視線が向けられました。失礼な男です。
「おや。貴女に帰れる場所があったとは初耳です」
「ぶっとばしますよ。誰のせいだと思ってるんですか」
「アッシュでしょう」
「アッシュじゃないの〜?」
黙りました。
ジェイドとアニスの組み合わせは最悪です。
…なんか最悪最悪ばっか言ってますね。すみません。
心中お察しください。
靴底が埋まるほどの湿地を歩む一同。未だ追撃の気配はありません。
私を含めた数人はいつも通りに雑談してはいるものの、
ナタリアを含めた数人は言葉を発しません。
内心どうしていいか分からないのもありますが、
特にどうなっていても構わない気持ちのほうが強いので、私は何も言いません。
すると、小さく息を吐いたアニスが、突発的に明るい声を出しました。
「さっきはびっくりしたなぁ。ナタリアって、国民に愛されてるんだねぇ」
ナタリアの足が止まりました。
彼女がアニスを見る目には、思いがけないというか、
そういった感情が篭っています。
それを見たルークがアニスに続き、さらにティアも続き。
今までの彼女を評価する言葉を並べました。
でも、お父様は。
各々の褒め言葉、国民からの真っ当な評価。
それを以ってしても埋まらない、父親という存在からの拒絶。
私には理解できませんが、親というものは重要で掛け替えのないものだそうです。
…一生かかっても理解できなさそうですね。
「陛下がどうしても君を拒絶するなら、マルクトにおいで。君なら大歓迎さ」
「…あなた、よく真顔でそんなことが言えますのね」
潤んだ瞳を見開き、呆気に取られてガイを見つめるナタリア。
ジェイドと私はにやにやとその様子を見守ります。
駄目ですよ、ガイ。ナタリアが亡命するのなら、きっとダアトです。
日々ラブコメを眼前で繰り広げられるのは苦痛ですが、
上司をからかうネタができて楽しいことでしょう。
…まあ、上司と私がダアトに帰れたら、ですが。
いつの間にか大粒の涙を零していたナタリアは、気丈にも微笑んで。
ガイに手を触れようとし―…避けられていました。
なんというか、最後の最後で締まらない男ですよね。あの人。
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