現実ってそんなに


アッシュを玉座の間へ残し、バチカルの街へ逃げ込みました。

しかし兵たちの追跡は随分と早く、気を抜けばすぐにでも捕まるでしょう。
仕方ないですね。私も上司に倣ってこの場に留まりましょうか。
どうも若干一名、足取りが優れないようですし。

「…っまずい!」

ガイの声に、全員が立ち止まります。
進路には多数のキムラスカ兵の姿。そして、背後にも。
…詰み寸前ですね、どうしましょう。
思わず顔をしかめた時、道の外れから、白い影が多数、来襲しました。
隣のルークが息を飲むのが聞こえます。

突如現れ、兵士を見る間に叩きのめすのは、白光騎士団でした。
そして彼らに続き、剣を携えた老人が姿を現します。

「ルーク様!ご命令通り、白光騎士団の者が道を開いておりますぞ」

ルークが目を剥き、ペール、何してるんだ。危険だぞ、と叫びます。
…いえ。それはどうでもいいのですが。ご命令?
ふと老人が目をしかめます。

「ルーク様、御髪が…やはり先程はカツラを?」
「は?」

何してるんです、上司。
私が走っている間の用事って、そういうことですか。
ここに残って皆様の盾にと言って譲らない彼をその場に残し、
騎士団が開いた道を突き進みます。そして、進んだ先に、あったものは。

「……すごい…!」

ティアが漏らした感嘆の声。
実は私も同感です。とても信じがたい光景が、広がっていました。

お玉にフライパン、その他もろもろ。
本来の用途は生活器具であろうそれを剣のように持ち、兵と渡り合っているのは、
紛れもなく、キムラスカに住まうバチカルの民衆でした。
…見開かれたナタリアの瞳が潤むのを、横目で確認します。

ナタリア様、と。民衆は叫び。

王族の血など関係ない。我らの王女はナタリア様だけだ、と続けます。

自分は偽者だと訴えたナタリアも、その言葉には黙り込みます。
しかしその瞳には、確固たる覚悟と誇り高さが、再び宿っていました。

ええ、でも。現実ってそんなに甘くないですよね。
刃のない民衆にやられて泣き帰るほど、兵というのは弱くありません。
将軍ゴールドバーグ、というそうです。
彼は倒れた老婆に剣を振り上げ、障害物として。排除しようとしました。

そして、それを蹴り倒す第三者。
瞬間移動でもしたのでしょうか、私の上司でした。

「ここは俺達に任せろ。早く行け、ナタリア!」
「…アッシュ」
「行け。そんなシケた面してる奴とは、一緒に国を変えられないだろうが!」

アッシュの言葉に、ナタリアは瞳を見開きます。
そして手のひらを唇に当て、ルーク、と呟きます。
それをアッシュは鼻を鳴らして一瞥し、ルークに…私の後ろのルークに、向き直ります。

「ドジを踏んだら、俺がお前を殺す」
「…けっ。お前こそ、無事でな」
「ユノ。ナタリア達を連れて、イニスタ湿原へ逃げろ」
「え。湿原なんて嫌ですよ、私も残ります」
「行け!!」

そんなに怒らないでくださいよ。後退しますよ、毛根?

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