苦痛をもったとしても


「お父様!!」

玉座の間に繋がる堅牢な扉を、ナタリアが開け放ちました。

中に見えたのは陛下を筆頭とするキムラスカの重役、下女、
そして豚、ラルゴ、ディストの姿です。
ディストが私を見て、何か言いたげに口を開きましたが無視します。

一方、ナタリアは国王の近くに駆け寄っては、悲痛な面立ちで真意を糾しています。
困惑するように視線を彷徨わせる国王。
うだつのあがらない王ですね。イライラします。

「お前の乳母が証言した。お前は亡き王妃様に仕えていた
 使用人シルヴィアの娘、メリル」

ナタリア、そして私達を視界に入れ、嘲笑するモース。
豚のくせに王族の言葉を遮るとは。なんという狼藉。許せませんね。
ぐだぐだと御託を並べ、傍らの下女に証言させたモースは、
ナタリアがあたかもその事実を知っていたかのように、言葉を続けます。
その事実を知って、アクゼリュスを崩壊させたのだと。

馬鹿馬鹿しい。
いくら苦痛をもったとしても、街ひとつを滅ぼすなど並大抵ではできません。
よくもまあ、こんな虚言がつらつらと並ぶものですね。

「そちらの死を以って、我々はマルクトに再度宣戦布告をする」

国王の言葉。いえ、それは宣言でした。
覆すことはできないでしょう。少なくとも私は、そう判断しました。

あいつらを殺せ、というモースの言葉に、ディストが動きます。

ルークとナタリアは呆然としていますが、他の面々は違います。
この場から逃げることを考えているでしょう。私と、同じように。

「何をしているのです、ラルゴ!他の者の手にかかっても、」

言わせるか。
「アクアゲイザーっ!!」
直線状に放った水流がディストを打ち上げ、壁に叩きつけます。
広い空間に響いた水音に、ルークとナタリアも我に帰った様子でした。
「逃げますよ!」
ジェイドの言葉に、全員が身を翻します。

しかし、この部屋のひとつしかない出口の前には兵士が密集していて。
背後から迫るラルゴの姿に、内心舌打ちしました。
あの馬鹿上司、今頃何をして―…!

「双牙斬!」

突如開いた扉、次々倒れていく兵士たち。
タイミングのいい男です。実は影から見てたんじゃないでしょうか。

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