あとで
あんた、性格悪いよね。
面倒くさいし白々しいよ。馬鹿みたいだと思わない?
不都合なら殺せばいいじゃないか。今、ここで。
確かに私は傭兵として導師守護役としてそれなりに場数を踏んではいるが、
地位と年の功を差し置いてもあんたには適わないさ。
その剣で斬りつけたら、きっとあっさり死ぬだろうね。
自殺願望?いやいや。ないよ、そんなもの。
だって私が認めているのは自分で死ぬことじゃないだろう。
他殺を許容してるだけ。自殺願望とは根本が違う。
わからないよ。
お前が私を殺さない理由。
まるで誰かに歯止めでもされているみたいじゃないか。
わからないよ。
*
「あの、本気でわかんないんですが。私は何処に向かってるんですか?」
場所は変わり、海上。
上のほうに身に覚えのない文の羅列がありますが、スルーします。
興味ないしどうでもいいです。果てしなく。
イオンくん筆頭の同行者たちを残らずダアトで降ろした上司は、
盗品であるタルタロスをダアト港近くに接岸させ。
私を伴い、連絡船へと乗り込みました。
出港までかなりギリギリだったので、行き先を確認できませんでした。
広くはない船内を走り回る船員さんはお世辞にも暇そうとは言えず、
仕方なく、甲板で海を眺めていた上司に尋ねにきた次第です。
しかし、潮風に長髪を玩ばせてかなり鬱陶しそうな状態の彼は、
私の言葉に返事どころか反応すら示しませんでした。
いらっ。
そうとしか表現できない突発的な感情が、私の内に芽生えます。
あーはい、そうですかぁ。
愛しのナタリアさんをダアトに置いてきちゃって、不機嫌ですか。
そうですよねえ。彼女、すっげー可愛いですものねえ。
嫉妬とか、そういう可愛い感情ではありません。
単純に。私の言葉を無視したという一点に限り、不快に思っただけです。
…つーか、本当に無視したんでしょうか。
目の前のアッシュさん、海を見つめて微動だにしません。
ここまでくると意図的に無視したとは考えられないですよね。
じゃあ、許してあげましょう。
「ストーンザッパー!」
頭に石(拳よりでかい)が直撃する様が面白かったので、それだけで。
激昂した彼にアイシクルレインを見舞われましたが、それも許しましょう。
面白かったから。
「バチカルだ」
後頭部を忌々しそうに撫ぜながら、上司はそう言います。
「お前をそこで降ろす。俺からの指示があるまで、待機していろ」
え、なに、なんですかそれ。
もしかして激務開放ですか。一時休暇ですかっ!?
目に見えてテンションが上がった私に、アッシュが溜息をつきました。
しかしそんなのは些細なこと。どうでもいいことです。
もはや私の心は、城下町の宿の中です。
ありがとうアッシュ。あなたのことはちゃんと思い出しますから。
あとで!
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