従ってあげます


ルークとアッシュのそれは、戦いと呼べるものではありませんでした。

二人とも各々の感情で我を忘れているようですが、
だからこそ、経験の差は歴然となり。

息を切らしたアッシュが、気絶したルークを見下ろしています。

「こんな屑に、家族も居場所も全部奪われただなんて…
 …情けなくて、反吐が出る!!」

再び剣を振り上げたアッシュに、ティアが抑止の声を上げます。
しかし、その勢いは止まらず。
面倒臭いですねえ。

咄嗟に長杖を構え、軽い弾を一撃、剣に撃ち込みました。
それほど力は入っていなかったのか、簡単に地面に転がる剣。
一瞬だけ呆然とした表情になるアッシュでしたが、すぐ我に帰った様子でした。

「冷静になってくださいよ、上司さま」

ヴァンに刃向かった以上、もう彼は"臨時上司"ではありません。
仕方ないので、従ってあげますよ。
私がダアトに帰ってゆっくり眠れる、その時まで。

「今ここで彼を殺して、何になりますか?貴方は助けに来たんでしょう」
「なっ…!?ち、違ぇっ!」
「あらあらおかしいですね。貴方、上空で私になんて言いました?」

数ページ前、『ああ、もう』参照です。
『早くしないと、奴らがくたばっちまうだろうが』。彼はそう言いました。

「死なれたら困る理由があったんでしょう。
 この私に謀反までさせたんです、反故になんかしないでくださいね」

長杖を担いで、無表情でノンブレス。
結構頑張った甲斐もあり、
アッシュは渋々剣を拾いに行き、鞘に収めてくれました。

…世話が焼けるにも程があります。

「ユノ、ありがとう。アッシュを止めてくれて…」
「礼には及びませんよ」
「ありがとうですの、ユノさんっ!」
「礼には……はあ。いえ、どういたしまして」

どうもこの小動物には強気に出れない私がいます。
性格は愚直といっていいほど素直だって分かっているんですが。
分かっては、いるんですけど。

「……とにかく、ルーク、運びましょうか。手伝います」

情けなくて反吐が出る感情を押し潰しながら、ルークの肩を掴みました。
アッシュの姿は、もうありません。

まったく。本当に、世話が焼ける上司さまですね。

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